親事業者の遵守事項⑩~購入・利用強制の禁止

2015-02-10

親事業者は、正当な理由が無いのに、下請事業者に、親事業者の指定する物を強制的に購入させたり、サービスを強制的に利用させたりしてはならないとされています。

これは、「購入・利用強制」といわれる違反行為です。

この違反行為を理解するポイントは

①「正当な理由」とは何か?

②「下請事業者に強制的に購入・利用させる」とはどういうことか?

ということになります。

まず①ですが、この「正当な理由」については、条文に例が記載されております。それによると、「下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合」には、正当な理由があるということになります。

これから類推すると、親事業者の注文した物が、特定の材料を使う必要があったり、特定の機械を使わないと作るのが難しいような場合が、この「正当な理由」になるといえるでしょう。

正当な理由があれば、購入・利用を強制しても問題ないということになりますが、正当な理由が、上記のようなものであるなら、そもそも、購入・利用を強制したとして問題になることはないように思われます。

実務上は、もっぱらこの正当な理由のない場合が問題になります。正当な理由のない場合、強制的に購入・利用させると、この違反行為に該当することになるからです。

そこで、②の「強制的に」とは、どのような場合かが問題となります。

購入・利用を取引の条件とするような場合や購入・利用しないと不利益を与えるような場合は当然強制的にということになると思いますが、親事業者が購入・利用を単に依頼したような場合でも、常にそれが「強制的」でないとはいえません。親事業者からすれば、買いたければ買って下さいという程度で依頼したとしても、下請事業者からすると、拒否し難い場合もあるからです。

そこでテキストでは、「事実上、下請事業者に購入等を余儀なくさせていると認められるか否か」を判断基準とするとしています。

なお、ガイドラインでは、購入・利用強制に該当するおそれがある場合として、以下のような例を挙げています。

ア 購買・外注担当者等下請取引に影響を及ぼすこととなる者が下請事業者に購入又は利用を要請すること。

イ 下請事業者ごとに目標額又は目標量を定めて購入又は利用を要請すること。

ウ 下請事業者に対して、購入又は利用しなければ不利益な取扱いをする旨示唆して購入又は利用を要請すること。

エ 下請事業者が購入もしくは利用する意思がないと表明したにかかわらず、又はその表明がなくとも明らかに購入もしくは利用する意思がないと認められるにもかかわらず、重ねて購入又は利用を要請すること。

オ 下請事業者から購入する旨の申し出がないのに、一方的に物を下請事業者に送付すること。

上記のうち、ウが駄目なのは明らかだと思います。エやオも下請事業者の意向を全く無視しているといえそうなので、やはり強制といえるでしょう。

イは場合によりけりのような気もしますが、目標額や目標量が定められているということは、無言の圧力ともいえますので、やはり避けるべきと思います。

少し行き過ぎと思えるのはアでしょうか。取引に影響を及ぼしうるという立場を利用して購入・利用を求めるということは強制といって差し支えないと思いますが、そうでない場合も当然ありうるからです。

ただ、強制するつもりがないのであれば、敢えて取引に影響を及ぼしうる立場の人から要請する必要もないと思います。

にもかかわらず、そのような人が要請するというのは、買わせようと強制していると疑われても仕方がないといえるでしょう。

李下に冠を正さず、といいますので、やはり、そのような立場の方は、要請を控えるべきです。

なお、購入・利用強制につきましては、平成20年4月17日に勧告が出されております。

公正取引委員会の報道発表資料によりますと、以下のような内容の事件です。

「K社は、業として請け負う貨物運送の全部又は一部を下請事業者に委託しているところ、自社の利益を確保するため、平成18年9月から同19年9月までの間、ラーメン等の物品販売キャンペーンにおいて、役員及び従業員の知人のほか取引先に購入を要請するという方針のもと、あらかじめ、本社各部、支店、営業所等の部門ごとに、販売目標数量を定め、下請事業者に対し、下請事業者との取引に係る交渉等を行っている支店、営業所等の長又は配車担当者を通じて、具体的な数量を示し、販売目標数量に達していない場合には既に購入した者に対し再度要請するなどして、購入要請を行っていた。・・・下請事業者(241名)は、今後のK社との取引を考えやむを得ず、前記要請を受け入れて、ラーメン等の物品を購入した(購入総額2469万1440円)。」

上記の例からすると、アとイ(場合によってはエ)が合わさった事例ですが、では、K社とすれば、どうすればよかったのかを考えてみるのもよいかも知れません。

 

親事業者の遵守事項⑨~有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止

2015-02-05

親事業者は、下請事業者に有償支給材(半製品、部品、附属品又は原材料)を支給している場合に、下請事業者に責任がないにもかかわらず、その有償支給材を用いた納品物に対する下請代金の支払期日よりも先に、有償支給材の代金を回収して、下請事業者の利益を不当に害してはならないとされています。

これは、「有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止」といわれる違反行為です。

親事業者が下請事業者に対して有償支給材を支給することがあると思いますが、その際、親事業者は、当然下請事業者からその代金を回収することになります。

通常の取引であれば、代金の回収時期は、お互いが合意しさえすれば、いつでもよいことになりますが、下請取引の場合、それ自由にしてしまうと、親事業者が有償支給材の代金を直ちに回収することが可能となり、結果として、それで作った給付物の代金を受け取る前に有償支給材の代金の支払いを強制され、下請事業者の資金繰りが苦しくなるおそれがあります。

そのような行為を防ぐのが、この禁止事項の目的となります。

この違反行為のポイントは

①「親事業者の支給する有償支給材」であること

②「有償支給材の代金を先に回収する(支払わせる又は控除する)」とは?

③「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?

④「下請事業者の利益を不当に害する」とは?

ということになります。

まず①ですが、条文をみると、「自己(親事業者)に対する給付に必要な原材料等を自己(親事業者)から購入させた場合」となっているので、対象となる有償支給材は、親事業者が売った物に限られるということになります。

なので、親事業者の子会社等が販売するのであれば、この規制の対象にはなりません(ただし、「購入・利用強制」の問題にはなり得ます)。

②ですが、条文を正確に引用すると、「・・・支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部もしくは一部を控除し、又は当該原材料等の対価の全部もしくは一部を支払わせること」となっておりますので、「控除」と「支払わせる」ということを意味します。「支払わせる」の方は問題ないと思いますが、「控除」とは、テキストによると、「下請代金から原材料等の対価の全部又は一部を差し引く事実上の行為をいい、その結果、支払期日に下請代金を全く支払わないことも含む」とされています。

実際上は、相殺されることが多いと思いますが、民法上の相殺が成立したか否かとは関係がないため、控除という一般的な用語を用いたようです。

下請代金の支払いより先に、有償支給材の代金を支払わせたり、控除したりすると、違反となりますから、少なくとも、下請代金の支払いと同時以降に、有償支給材の代金を回収する必要があります。

実務上は、以下のいずれかの方法になると思います。

ア 下請事業者の給付に対する代金の支払期日に、実際に使用された原材料等の対価を控除して下請代金を支払う。

イ 有償支給材が全部使われる期間を過ぎてから、全額を下請代金から控除して支払う。

アの場合、全部の原材料等が使われていれば、イと同じになりますが、一部しか原材料等が使われない場合には、その代金分だけ回収することになります。

イの場合、原材料等がどのくらい使われたかどうかをいちいち確認しなくてよいことにはなりますが、その分原材料等の対価の回収が遅れることになります。

③の「下請事業者に責任のある場合」については、テキストでは、以下のような場合が該当するとしております。

ア 支給された原材料等を下請事業者が破損又は滅失したため、それを用いて親事業者に納入すべき物品の製造が不可能となった場合

イ 支給された原材料等によって不良品や注文外の物品を製造した場合

ウ 支給された原材料等を他に転売した場合

なお、これは他の違反行為とは違って、例示ですので、これ以外にも該当する場合があると考えられます。

問題は、下請事業者に責任がないにもかかわらず、原材料等が滅失してしまった場合の処理です。

例えば、東日本大震災による津波で下請事業者の工場が被害を受け、全て原材料等が流されてしまったような場合が該当すると思います。

この場合、通常下請事業者に責任はないことになりますから、結局親事業者としては、原材料等の代金を回収できないと考えざるを得ないでしょう。

最後に④ですが、テキスト等では、どのような場合であれば「下請事業者の利益を不当に害する」ことになるのかについて、何ら触れられておりません。

これについては、平成23年の勧告事案が参考になります。

http://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukekankoku/sitaukekankoku23.files/11122102.pdf

この事件は、早期決済の禁止が勧告の対象となったあまりないケースですが、資料の中に、「下請事業者の不利益」に触れた部分があります。

これによると、「下請事業者の不利益」は

 

【有償支給原材料等の対価の早期決済と 下請事業者の不利益について】

・S社(勧告を受けた親事業者)が下請事業者に包装材料を有償支給し、当該包装材料を使用した商品に係る下請代金の支払より前に、当該包装材料の対価の決済を行う。【有償支給原材料等の対価の早期決済】

・包装材料の対価の決済後、販売不振等によりS社の自社ブランド商品の製造委託が終了。

・包装材料の使用取りやめに伴い、包装材料が不要となる(残包材の発生)。

・残包材を用いた商品の納入の機会がなくなるため 、下請事業者は残包材を用いた商品の下請代金の支払を受けられず、残包材の対価相当額が下請事業者の不利益として残る。

 

ということになります。

すなわち、支給された材料の代金は払ったものの、それを用いる製品を親事業者であるS社が製造中止としたため、材料だけが下請事業者の元に残された、これが「下請事業者の不利益」だ、というのです。

もしそうだとすると、「早期決済をしても、最終的に下請代金を支払えば、下請事業者に不利益はない」ということになります。

そう言い切ってよいかどうかは、何ともいえませんが、少なくとも本件では、S社が下請事業者から包装材料を買い戻しておけば、早期決済の部分は勧告の対象とはされなかったように思います。

 

平成26年度下請取引適正化推進セミナー・事例研究コースのご案内

2015-01-23

下記の日程で、下請取引適正化推進セミナー((財)全国中小企業取引振興協会主催)の講師を担当させていただくこととなりました。

今回のセミナーは、過去の下請法違反事例や下請取引改善講習会における質問事例等を題材にした実践的なものとなります。

受講料は1名に付き12,400円(テキスト代・消費税込み)です。

関心のある方は、是非ご参加いただければと思います。

詳しくは、主催者のホームページ(http://zenkyo.or.jp/seminar/orijinal_jirei.htm)をご覧下さい。

日時:平成27年3月12日(木) 13:00~16:00

場所:国立オリンピック記念青少年総合センターセンター棟5階501号室(東京都渋谷区代々木神園町3-1)

年末年始の営業のお知らせ

2014-12-08

本年は12月26日まで営業の予定です。

平成27年の営業は1月5日からとなります。

よろしくお願いいたします。

親事業者の遵守事項⑧~割引困難な手形の交付の禁止

2014-11-27

親事業者は、下請代金を手形で支払う場合、下請事業者に、一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付して、下請事業者の利益を不当に害してはならない、とされています。

これは、「割引困難な手形の交付」といわれる違反行為です。

手形割引とは、「満期未到来の手形の所持人(割引依頼人)が、その手形を第三者(割引人)に裏書譲渡し、その対価として割引依頼人が手形金額から満期までの利息及び費用(割引料)を控除した金額を割引人から取得する行為」(有斐閣・法律学小辞典第4版)のことです。

このように、手形を割り引いてもらうと、割引料等がかかりますから、下請事業者は、下請代金の支払日に満額受け取れないということになりますが、親事業者が下請代金を手形で支払っても、下請代金の減額ということにはなりません(なるのであれば、そもそも、手形で支払うことができなくなってしまいます)。

この違反行為のポイントは

①「一般の金融機関」とは何か?

②「割引困難な手形」とは何か?

③ この違反行為において「下請事業者の利益を不当に害する」とはどのようなことか?

になります。

①については、手形割引を行うのは銀行が多いかと思いますが、銀行に限らず、貸金業の登録を受ければ、業として手形の割引を行うことができます(いわゆる手形割引業者)。もっとも、テキストでは、「一般の金融機関」とは、「預貯金の受入と資金の融通を併せて業とする者」とされ、貸金業者は含まれないとされています。

次の②がこの違反行為のもっとも重要なところです。普通に考えると、ある手形が「割引困難な手形」であるかどうかを一律に定義することは困難でしょう。かといって、個別に判断していたのでは、迅速な処理ができなくなってしまいます。

そこで「割引困難な手形」であるかどうかは、手形期間で一律に判断することとされています。具体的には、繊維業は90日を超える手形、それ以外の業種は120日を超える手形が、この「割引困難な手形」に該当するということになっています。

最後に③ですが、本違反行為は下請法4条2項の違反行為ですので、本違反行為が成立するためには、「下請事業者の利益を不当に害する」という要件も満たす必要があります。これは、上記の期間を満たさない手形(割引困難な手形)を交付したところ、あっさりと割り引きできてしまったような場合に問題になるかと思いますが、過去の指導事例を調べても、実務上、この要件は全く考慮されていないように思います。

従って、公正取引委員会としては、「割引困難な手形」を交付すること自体が、「下請事業者の利益を不当に害する」ことになると考えているのでしょう(か?)。

最後に、全くどうでもいいことですが、下請代金を手形で支払ったはよいが、満期に不渡りとなった場合を考えてみましょう。

この場合、下請事業者は、割り引いてもらった金融機関から、不渡りになった手形の買い戻しを求められることになります。その上で、親事業者に対し、手形金の支払を求めることになるのですが、これによって親事業者は支払遅延になるのか、というのが問題です。

手形法についての理論的な問題は司法試験以来ですので、若干(かなり)怪しいところですが、結論だけ申し上げれば、一旦下請代金を手形で支払ったのですから、遡って下請法上も支払遅延になるということはないように思います。

 

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