2014.1月 の一覧
親事業者の遵守事項③~受領拒否
親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請事業者の給付の受領を拒んではならないとされています。
これは、「受領拒否」といわれる違反行為ですが、この違反行為のポイントは
①「受領」を「拒む」とは何か?
②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?
になります。
①の「受領」ですが、これは、親事業者が納入物を事実上の支配下に置くこととされています。親事業者が受け取れば当然受領ですが、親事業者が指定した先が受け取っても、受領になります。有体物が前提となっているので、役務提供委託には適用されません。
この「受領」を「拒む」と、「受領拒否」ということになります。
下請事業者が持ってきたものを受け取らないというのが典型ですが、発注の取り消しや納期の延期なども、既にものが完成しており、受領しようと思えばできる状態にあるのであれば、受領拒否に該当します。
②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。
ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)
イ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)
ウ 下請事業者の給付が3条書面に明記された納期に行われない場合(納期遅れ等)
受領を拒むという実行行為については、それほど問題ないと思いますから、もし、受領を拒む場合には、その理由が何であるかを検討していただければ、受領拒否の違反になるか否かがすぐに分かることになります。
すなわち、その理由が、上記のア~ウであれば大丈夫、それ以外の理由であれば、違反、ということになります。
※最近、返品と受領拒否の違いについて質問を受け、気づいたことですが、上記のア及びイの理由は、受領後に判明することが通常でしょうから、アとイを理由とする受領拒否は、既に親事業者が目的物を支配下に置いた(受領した)後で判明することなので、事実上、ほとんどあり得ないのではないかと思います。あるとすれば、納品物を見た瞬間に瑕疵等が判明したので受け取らない、というような場合に限られるでしょう。
親事業者の遵守事項②~買いたたき
親事業者は、発注に際して下請代金の額を決定する際に、発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対し、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めてはならないとされています。
これは、「買いたたき」といわれる違反行為ですが、この違反行為のポイントは
①「通常支払われる対価」とは何か?
②「不当に定める」とはどういうことか?
になります。
まず、①ですが、テキストによると、これは、
(ア) 同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)について実際に行われている取引の価格(すなわち市価)のことをいう。
(イ) 市価の把握が困難な場合は、それと同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)に係る従来の取引価格をいう。
となっています。
しかしながら、下請取引の性質上、市価があるのは原材料など限られたものだと思いますし、「同種又は類似」というのも同様だと思いますから、これでは余り参考にならないように思います。
さらに、「通常支払われるべき対価」というものが仮にあるとしても、外部の第三者がそれを認定するのは、通常困難でしょう。
加えて、要件としては、それから著しく低いとされた場合に違法となるというのですから、どのくらい低いと「著しい」のかという、これまた困難な問題を解決しなければなりません。
なので、このような認定の難しい要件に頭を悩ませるのであれば、むしろ②の要件の方に対応する方が実務的であると思います。
では、どうすれば「不当に定めた」といわれずに済むのでしょうか。
過去の指導事例を見ると、買いたたきによく使われている表現が「下請事業者と十分な協議をすることなく」とか「一方的に」といったものです。
ここから推測すると、「下請代金は、親事業者が一方的に決めず、下請事業者と十分協議して決めなさい(あるいは見積もりを取ったなら、その通りに発注しなさい)」ということが、親事業者に求められている行為であり、それを怠ると、「不当に定めた」となると考えられます。
従って、買いたたきは、いくらにするのかという価格そのものよりも、まずは、どのようにして決めるのかという手続きに注意すれば、違反を回避できるものといってよいでしょう。
後は、下請事業者から下請代金の値上げについて申し入れがあった場合は、きちんと対応することも必要だと思います。そのような場合に、協議もせずに従来どおりの単価を使用し続けると、「不当」とされる場合もありえます。
買いたたきは、上記のように要件が難しいせいか、余り勧告の対象とはなっておりません。
例外は、平成19年12月6日勧告の事件です。これは、当初下請代金から「出精値引」として一定率を減額していたH社が、公正取引委員会の調査が入ったことを契機として、減額ではなく、下請代金そのものを同程度引き下げたというものです。
確かに、事後的に下請代金から差し引いていないため、減額には該当しないですが、時期的にみて、かなり挑発的だったように思います。
H社は、これによって、減額と買いたたきで勧告を受けることとなってしまいました。
※本稿掲載後、買いたたきの勧告が出されました。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h26/jul/140715.files/140715.pdf
買いたたきの部分に関しては、
「D社は、平成24年11月から平成25年11月までの間に、商品の売行きが悪いことを理由として、発注前に下請事業者と協議して決定していた予定単価を約59パーセントから約67パーセント引き下げた単価を定めて発注した。当該予定単価を用いて計算した代金の額と実際の下請代金の額との差額は、総額657万8897円である(下請事業者2名)。」
というものです。
ここでもやはり、「通常支払われる対価に比べて著しく低いかどうか」は、少なくとも文書上は問題とされてはおりません(上記のような引き下げをすれば、経験則上当然該当するとは思いますが)。
ここでもやはり、一度協議して決めた単価を一方的に引き下げたことが問題にされたと考えられます。
親事業者の遵守事項①
下請法上、親事業者には、11項目の遵守事項が課されています。これらは、下請法の4条に規定されているのですが、4条は1項と2項に分かれています。
一応条文の概要を示してみましょう。
(親事業者の遵守事項)
第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一~七(略)
2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
一~四(略)
1項と2項で何が違うのかといえば、2項には、「下請事業者の利益を不当に害してはならない」という要件が付け加わっているという点です。
つまり、条文に書かれた行為をすると違法というのが1項、条文に書かれた行為をして、下請事業者の利益を不当に害すると違法になるのが2項、ということになります。
ただ、実際には、4条2項の遵守事項のうち、「下請事業者の利益を不当に害したかどうか」という要件が意味を持っていると考えられるのは、「不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止」(4条2項4号)くらいではないかと思います。
なお、公正取引委員会のテキスト(以下「テキスト」といいます。)によると、遵守事項については、下請事業者の了解を得ていても、また、親事業者に違法の意識がなくても、規程に抵触すれば違法になるとなっています。
後者、すなわち、「悪いことだとは思わなかった」というのが通用しないのは、ある意味当然のことだと思いますが、前者については、個人的にはどうかと思うところです。一般論として、下請事業者に対する保護は必要だとしても、下請事業者も事業者ですから、それが任意に了承したことについてまで、法に違反するとするのは、ある意味、お節介ではないかと思うからです。
ともあれ、運用する側が、下請事業者の承諾を免責事由とはしていないということは、心しておく必要があるでしょう。
下請取引適正化推進セミナー・事例研究コースのご案内
新年明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いいたします。
さて、下記の日程で、下請取引適正化推進セミナー((財)全国中小企業取引振興協会主催)の講師を担当させていただくこととなりました。
今回のセミナーは、過去の下請法違反事例や下請取引改善講習会における質問事例等を題材にした実践的なものとなります。
受講料は1名に付き12,000円(テキスト代・消費税込み)です。
関心のある方は、是非ご参加いただければと思います。
詳しくは、主催者のホームページ(http://zenkyo.or.jp/seminar/orijinal_jirei.htm)をご覧下さい。
記
日時:平成26年1月29日(水)13:00~17:00
場所:東京ファッションセンター(東京都墨田区横網1-6-1)