親事業者の遵守事項②~買いたたき
親事業者は、発注に際して下請代金の額を決定する際に、発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対し、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めてはならないとされています。
これは、「買いたたき」といわれる違反行為ですが、この違反行為のポイントは
①「通常支払われる対価」とは何か?
②「不当に定める」とはどういうことか?
になります。
まず、①ですが、テキストによると、これは、
(ア) 同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)について実際に行われている取引の価格(すなわち市価)のことをいう。
(イ) 市価の把握が困難な場合は、それと同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)に係る従来の取引価格をいう。
となっています。
しかしながら、下請取引の性質上、市価があるのは原材料など限られたものだと思いますし、「同種又は類似」というのも同様だと思いますから、これでは余り参考にならないように思います。
さらに、「通常支払われるべき対価」というものが仮にあるとしても、外部の第三者がそれを認定するのは、通常困難でしょう。
加えて、要件としては、それから著しく低いとされた場合に違法となるというのですから、どのくらい低いと「著しい」のかという、これまた困難な問題を解決しなければなりません。
なので、このような認定の難しい要件に頭を悩ませるのであれば、むしろ②の要件の方に対応する方が実務的であると思います。
では、どうすれば「不当に定めた」といわれずに済むのでしょうか。
過去の指導事例を見ると、買いたたきによく使われている表現が「下請事業者と十分な協議をすることなく」とか「一方的に」といったものです。
ここから推測すると、「下請代金は、親事業者が一方的に決めず、下請事業者と十分協議して決めなさい(あるいは見積もりを取ったなら、その通りに発注しなさい)」ということが、親事業者に求められている行為であり、それを怠ると、「不当に定めた」となると考えられます。
従って、買いたたきは、いくらにするのかという価格そのものよりも、まずは、どのようにして決めるのかという手続きに注意すれば、違反を回避できるものといってよいでしょう。
後は、下請事業者から下請代金の値上げについて申し入れがあった場合は、きちんと対応することも必要だと思います。そのような場合に、協議もせずに従来どおりの単価を使用し続けると、「不当」とされる場合もありえます。
買いたたきは、上記のように要件が難しいせいか、余り勧告の対象とはなっておりません。
例外は、平成19年12月6日勧告の事件です。これは、当初下請代金から「出精値引」として一定率を減額していたH社が、公正取引委員会の調査が入ったことを契機として、減額ではなく、下請代金そのものを同程度引き下げたというものです。
確かに、事後的に下請代金から差し引いていないため、減額には該当しないですが、時期的にみて、かなり挑発的だったように思います。
H社は、これによって、減額と買いたたきで勧告を受けることとなってしまいました。
※本稿掲載後、買いたたきの勧告が出されました。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h26/jul/140715.files/140715.pdf
買いたたきの部分に関しては、
「D社は、平成24年11月から平成25年11月までの間に、商品の売行きが悪いことを理由として、発注前に下請事業者と協議して決定していた予定単価を約59パーセントから約67パーセント引き下げた単価を定めて発注した。当該予定単価を用いて計算した代金の額と実際の下請代金の額との差額は、総額657万8897円である(下請事業者2名)。」
というものです。
ここでもやはり、「通常支払われる対価に比べて著しく低いかどうか」は、少なくとも文書上は問題とされてはおりません(上記のような引き下げをすれば、経験則上当然該当するとは思いますが)。
ここでもやはり、一度協議して決めた単価を一方的に引き下げたことが問題にされたと考えられます。