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下請法と優越的地位の濫用について①

2012-04-12

年度末の3月27日から30日にかけて、公正取引委員会は立て続けに3件、下請法違反による勧告を行いました。

いずれも下請代金の減額の禁止に違反したもので、内容的にはよくあるものですが(勧告の対象はほとんどすべてが下請代金の減額の禁止違反です)、いずれの親事業者も、下請事業者に対して下請代金の減額を要請し、それを了承した下請事業者に対して、下請代金の減額を行ったというものです。

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.march/12032702.pdf

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.march/120328.pdf

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.march/120330.pdf

下請事業者の了解があっても、親事業者が禁止事項に該当する行為を行えば下請法の違反であるというのが公正取引委員会の立場なので、これはある意味当然なのですが、敢えて「了承した下請事業者」としているところからすると、了承しなかった下請事業者に対しては減額を行わなかったようです(もっとも、これら以外の減額の事案についても、ほとんどこのような表現が用いられていることから、単なる定型的な表現であって、余り深い意味はないかも知れませんが)。

とすると、了承するか否かの判断を下請事業者に委ね、了承しなかった下請事業者に対しても特段の不利益等が与えられていなければ、減額を了承した下請事業者は、任意に了承したものと考えられます。

ということは、公正取引委員会は、仮に下請事業者が全くの任意で減額に応じたとしても、下請法違反になると考えていることになります。このことは、公正取引委員会と中小企業庁の作成した下請法のテキストの以下のような記述からも分かります。

Q58: 下請事業者から当月納入分を翌月納入分として扱って欲しいと頼まれ、下請代金も翌月納入されたものとみなして支払ったところ、支払遅延であるとの指摘を受けたが問題となるか。

A: 本法の適用については、下請事業者との合意は問題とならない。下請事業者との合意の有無に関係なく、下請代金は受領した日から起算して60日以内に定めた支払期日までに支払わなければならない。

ところで、勧告に従わないとどうなるのでしょうか。下請法8条では、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第20条(排除措置)及び第26条の6(優越的地位の濫用に係る課徴金)の規定は、公正取引委員会が前条第1項から第3項までの規定による勧告をした場合において、親事業者がその勧告に従ったときに限り、親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」となっていますから、勧告に従わない場合、勧告の対象となった行為について、独占禁止法上の優越的地位の濫用の禁止にも該当するのであれば、排除措置命令が出され、場合によっては課徴金が課されることになるということになります(寡聞にして、そのような勇猛果敢な親事業者の事例を知りませんが・・・)。

下請代金減額の場合、優越的地位の濫用でいうと、独占禁止法2条9項5号ハが対応することになります。

ここまではいいとして、では、下請事業者が任意に応じた下請代金の減額が下請法に違反するとしても、優越的地位の濫用にも該当することになるのでしょうか。

これを次回に検討してみたいと思います。

 

間に別会社が介在した場合と下請法の適用(トンネル会社と商社)

2012-02-23

下請代金支払遅延等防止法(下請法)には、親事業者と下請事業者が登場します。親事業者と下請事業者は、

A どのような取引をするのか

B 両者の資本金額はいくらか

で形式的に決まることになります。特にBの資本金額については、資本金の額が1000万円以下の会社の場合、どの区分でも親事業者にならないことになります。

だとすると、例えば、今までA社(親事業者)とB社(下請事業者)が直接取引しており、下請法の適用があった場合に、A社からB社に直接発注するのではなく、A社が資本金の額が1000万円以下の会社(C社)を設立し、一旦そこに全部発注して、そこからさらに今まで下請事業者だったところに発注すれば、下請法の適用を免れることになるのでしょうか。

これを認めると下請法が簡単に骨抜きになってしまうため、A社とB社とが直接取引をすれば下請法の適用があることを前提に、①A社がC社を支配していること、及び、②A社からC社が発注を受けたものの相当部分をC社がB社に再委託することという要件を満たせば、C社が親事業者、B社が下請事業者とみなされることになります。

以上は、下請法の条文(2条9項)に書いてあることですが、間に別会社が介在する場合の例として、公正取引委員会と中小企業庁が作成している下請取引適正化推進講習会のテキスト(http://www.jftc.go.jp/sitauke/23textbook.pdf)の16ページには、商社が関与する場合の記載があります。

これによると、例えばD社(親事業者)とE社(下請事業者)との間に商社(F社)が介在した場合、F社がD社とF社の取引の内容(製品仕様、下請事業者の選定、下請代金の額の決定等)に関与する場合か否かで場合分けされることになります。

そして、関与しないのであれば、D社が親事業者、E社が下請事業者となり、関与するのであれば、D社とF社、F社とE社が、それぞれ親事業者と下請事業者になるとされています(他の要件は満たすものとします)。

なお、「商社」となってはおりますが、「商社」自体明確な概念ではないので(ちなみに手元の辞書(大辞林第3版)では「商品取引を事業の中心とする会社」となっております)、このテキストの考え方は、間に別会社が介在する場合全般に妥当するものと思います。

とすると、F社が取引の内容には関与しないものの、上記の①と②の要件を満たして親事業者とみなされる場合にどうなるのかということが問題になるかと思います。

普通に考えると、D社とF社がともに親事業者となりそうですが、条文で規定されたトンネル会社の場合でさえ、間に入った会社が親事業者とみなされるだけなのと比べると、明らかに均衡を欠く、というか、矛盾するように思います。

やはり、F社が取引の内容に関与しない場合にはD社を親事業者とする構成そのものに無理があるのではないでしょうか。

上記のように、D社⇒F社(商社)⇒E社で発注がなされる場合、直接の取引相手ではないにもかかわらず、D社を親事業者、E社を下請事業者とすると、D社は、目的物の受領後60日以内に下請代金を支払わなければなりませんが、D社がF社に支払うだけでは足りず、F社からE社への支払いが60日以内に完了している必要があります。

この点、上記のテキスト40ページには、「商社を経由して下請代金を支払う場合は、あらかじめ商社から下請事業者にいつ下請代金が支払われるのか確認し、支払期日までに下請事業者に下請代金が支払われるように商社との間で事前に取決めを行っておく必要がある」との記載があります。しかし、F社がそのような取決めを拒んだらどうするのでしょうか(まさか公正取引委員会が無理矢理飲ませろ、飲まなければ取引から外せ、とは言わないと思いますが・・・)。また、取り決めをしたもののF社がそれを守らなかった場合、D社が下請法違反の責めを負うことになりますが、それでもよいのでしょうか。

その他にも、発注書面はどちらに出せばよいのか、F社が手数料を取ったら下請代金の減額になるのかなどの問題も考えられるでしょう。自らのあずかり知らぬところで法律違反の問題が生じるのは、D社に酷なのではないかと思います。

そもそも、F社が関与することになる場合として考えられるのはどのような場合でしょうか。

色々あるかと思いますが、大きく分けて、

ア F社がD社の依頼を受けるなどしてE社を探してきた場合

イ D社が発注部門を子会社などの別会社に委託する場合

の2つではないでしょうか。

アの場合は、下請事業者の選定という取引の内容に関与しておりますから、D社は、E社との関係で親事業者とはならない場合になります。

イの場合、おそらく①の支配の要件を満たすことになると思いますから、後は②の要件を満たす場合に、E社を親事業者とみなせばよい、ということになります。

私はこれで十分ではないかと思います。

 

平成23年度下請取引適正化推進セミナーのご案内

2011-12-19

下記の日程で、下請取引適正化推進セミナー(財団法人全国中小企業取引振興協会主催)の講師をいたします。

いずれも下請代金支払遅延等防止法と優越的地位の濫用を中心とした独占禁止法の解説で、有料(1名1会場14,000円)となります。

申込方法など詳しくは主催者ホームページ(http://zenkyo.or.jp/seminar/yuryo.htm)をご覧下さい。

1.平成24年2月24日(金)東京都江東区(東京ファッションタウンTFT)

2.平成24年3月7日(水)東京都中央区(日本印刷会館)

※時間はいずれも10:00~17:00です。

 

役務提供委託~「自ら用いる役務」について

2011-11-08

下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます)という法律があります。とても形式的な法律で、当事者の資本金の額と取引内容によって適用の有無が決まり、適用がある場合、資本金の額の多い方が「親事業者」、少ない方(あるいは個人)の方が「下請事業者」となります。

親事業者になると、発注書面の交付義務などの4つの義務と、下請代金の減額の禁止などの11の禁止事項が課されることになります。

 

下請法の適用のある取引には、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4つがあります。

このうち、役務提供委託とは、事業者が事業として行っている顧客へのサービス提供の全部又は一部を他の事業者に委託することです(ただし建設工事の下請は除かれます)。

役務とはサービスのことで、法律上は特にその範囲に制限がないため、あらゆるサービスが該当することになります。

 

この役務提供委託については、他の3つの取引と大きな違いがあります。それは、自ら用いる役務であれば、どのような場合であっても、それを他の事業者に委託する行為が役務提供委託には該当しないということです。

 

では、この「自ら用いる役務」とは、何でしょうか。下請法のガイドラインでは、「自ら用いる役務」に該当するかどうかは、「取引当事者間の契約や取引慣行に基づき判断する」としています。

 

これだけではわかりにくいので、例をみてみましょう。

公正取引委員会が作成している講習会用のテキストには、自ら用いる役務の例として

①    ホテル業者が、ベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること。

②    工作機械製造業者が、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること。

③    カルチャーセンターを営む事業者が、開催する教養講座の講義を個人事業者である個人に委託すること。

④    プロダクションが、自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること。

を挙げています。

公正取引委員会がいいといっているのに、それに異を唱えるのは野暮なことだと実務家としては分かってはいるのですが、②はともかく、①、③、④はすんなり自ら用いる役務と納得しがたいものがあります。③でカルチャーセンターが聴講者に主に提供するサービスは何かといえば、「教養講座の講義」だと思いますし、④でプロダクションが観客に提供する主なサービスは、歌手の歌唱ではないかと思いますが、これらを他の事業者に委託していると考えられるからです。①については、どちらもあり得ると思いますが、宿泊中の宿泊客が希望する場合に行われるベッドメイキングの場合は、それがホテルの提供しているサービスの一部であることを否定するのは難しいのではないかと思います。

 

そこで、公正取引委員会の挙げている例から何かの法則(大げさですが)を帰納できるかを検討してみましょう。色々考えられると思いますが、他者に提供するサービスであっても、それだけ取り出しても意味をなさない、または、それだけ取り出すことができないサービスの場合には、自ら用いる役務になる、とはいえないでしょうか。

つまり、他者に提供する役務の一部を他の事業者に委託する場合とは、例えばある配送業者が顧客からAという荷物とBという荷物の配送を請け負った場合に、そのうちBの荷物の配送だけを他の配送業者に委託するような場合であって、他者に提供するサービスであっても、全体としてのサービスを構成する一部であって、そのサービスだけを取り出してみても顧客の要請を満たさないような場合には、「自ら用いる役務」といっていいように思えます。

これについて、①は分かり易いですが、③④でも、講義や歌唱の提供は、それが提供される場(会場)の提供その他のサービスと合わさってはじめて意味を持つものと考えられるでしょう。

 

次に、契約によって、自ら用いる役務にできる例をみてみましょう。

公正取引委員会のホームページに掲載されているQ&Aに、以下のような設問があります。

 

Q19 メーカーが,ユーザーへの製品の運送を運送業者に外注した場合には,下請法の対象となりますか。

A. メーカーがユーザー渡しの契約で製品を販売している場合,運送中の製品の所有権がメーカーにあるときは,当該運送行為は製品の販売に伴い自社で利用する役務であるため,役務提供委託には該当しません。
下請法の規制対象となる役務提供委託に該当するのは,他人の所有物の運送を有償で請け負い,他の事業者に委託する場合に限られます。

 

通常の運送業はともかく、例えば小売業者が客の購入した商品を配送する場合、その配送を他の業者に委託する行為が役務提供委託になるのかどうかは、特に配送がオプションであり、配送料を取る場合などにはにわかに判別しがたいところではないかと思います。ところが、この設問に従えば、商品の所有権の移転時期は契約で決めることができますので、契約で所有権の移転時期を引渡時とすれば、自ら用いる役務として処理できることになります(もっともこのためだけに所有権の移転時期を決めるのがいいかどうかの問題はありますが)。

 

なお、前記の基準によれば、購入者に対する配送サービスは、それだけ取り出すことのできないものと考えられますので、自ら用いる役務として処理できることになります。

以上

 

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