役務提供委託~「自ら用いる役務」について

2011-11-08

下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます)という法律があります。とても形式的な法律で、当事者の資本金の額と取引内容によって適用の有無が決まり、適用がある場合、資本金の額の多い方が「親事業者」、少ない方(あるいは個人)の方が「下請事業者」となります。

親事業者になると、発注書面の交付義務などの4つの義務と、下請代金の減額の禁止などの11の禁止事項が課されることになります。

 

下請法の適用のある取引には、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託の4つがあります。

このうち、役務提供委託とは、事業者が事業として行っている顧客へのサービス提供の全部又は一部を他の事業者に委託することです(ただし建設工事の下請は除かれます)。

役務とはサービスのことで、法律上は特にその範囲に制限がないため、あらゆるサービスが該当することになります。

 

この役務提供委託については、他の3つの取引と大きな違いがあります。それは、自ら用いる役務であれば、どのような場合であっても、それを他の事業者に委託する行為が役務提供委託には該当しないということです。

 

では、この「自ら用いる役務」とは、何でしょうか。下請法のガイドラインでは、「自ら用いる役務」に該当するかどうかは、「取引当事者間の契約や取引慣行に基づき判断する」としています。

 

これだけではわかりにくいので、例をみてみましょう。

公正取引委員会が作成している講習会用のテキストには、自ら用いる役務の例として

①    ホテル業者が、ベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること。

②    工作機械製造業者が、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること。

③    カルチャーセンターを営む事業者が、開催する教養講座の講義を個人事業者である個人に委託すること。

④    プロダクションが、自社で主催するコンサートの歌唱を個人事業者である歌手に委託すること。

を挙げています。

公正取引委員会がいいといっているのに、それに異を唱えるのは野暮なことだと実務家としては分かってはいるのですが、②はともかく、①、③、④はすんなり自ら用いる役務と納得しがたいものがあります。③でカルチャーセンターが聴講者に主に提供するサービスは何かといえば、「教養講座の講義」だと思いますし、④でプロダクションが観客に提供する主なサービスは、歌手の歌唱ではないかと思いますが、これらを他の事業者に委託していると考えられるからです。①については、どちらもあり得ると思いますが、宿泊中の宿泊客が希望する場合に行われるベッドメイキングの場合は、それがホテルの提供しているサービスの一部であることを否定するのは難しいのではないかと思います。

 

そこで、公正取引委員会の挙げている例から何かの法則(大げさですが)を帰納できるかを検討してみましょう。色々考えられると思いますが、他者に提供するサービスであっても、それだけ取り出しても意味をなさない、または、それだけ取り出すことができないサービスの場合には、自ら用いる役務になる、とはいえないでしょうか。

つまり、他者に提供する役務の一部を他の事業者に委託する場合とは、例えばある配送業者が顧客からAという荷物とBという荷物の配送を請け負った場合に、そのうちBの荷物の配送だけを他の配送業者に委託するような場合であって、他者に提供するサービスであっても、全体としてのサービスを構成する一部であって、そのサービスだけを取り出してみても顧客の要請を満たさないような場合には、「自ら用いる役務」といっていいように思えます。

これについて、①は分かり易いですが、③④でも、講義や歌唱の提供は、それが提供される場(会場)の提供その他のサービスと合わさってはじめて意味を持つものと考えられるでしょう。

 

次に、契約によって、自ら用いる役務にできる例をみてみましょう。

公正取引委員会のホームページに掲載されているQ&Aに、以下のような設問があります。

 

Q19 メーカーが,ユーザーへの製品の運送を運送業者に外注した場合には,下請法の対象となりますか。

A. メーカーがユーザー渡しの契約で製品を販売している場合,運送中の製品の所有権がメーカーにあるときは,当該運送行為は製品の販売に伴い自社で利用する役務であるため,役務提供委託には該当しません。
下請法の規制対象となる役務提供委託に該当するのは,他人の所有物の運送を有償で請け負い,他の事業者に委託する場合に限られます。

 

通常の運送業はともかく、例えば小売業者が客の購入した商品を配送する場合、その配送を他の業者に委託する行為が役務提供委託になるのかどうかは、特に配送がオプションであり、配送料を取る場合などにはにわかに判別しがたいところではないかと思います。ところが、この設問に従えば、商品の所有権の移転時期は契約で決めることができますので、契約で所有権の移転時期を引渡時とすれば、自ら用いる役務として処理できることになります(もっともこのためだけに所有権の移転時期を決めるのがいいかどうかの問題はありますが)。

 

なお、前記の基準によれば、購入者に対する配送サービスは、それだけ取り出すことのできないものと考えられますので、自ら用いる役務として処理できることになります。

以上