間に別会社が介在した場合と下請法の適用(トンネル会社と商社)
下請代金支払遅延等防止法(下請法)には、親事業者と下請事業者が登場します。親事業者と下請事業者は、
A どのような取引をするのか
B 両者の資本金額はいくらか
で形式的に決まることになります。特にBの資本金額については、資本金の額が1000万円以下の会社の場合、どの区分でも親事業者にならないことになります。
だとすると、例えば、今までA社(親事業者)とB社(下請事業者)が直接取引しており、下請法の適用があった場合に、A社からB社に直接発注するのではなく、A社が資本金の額が1000万円以下の会社(C社)を設立し、一旦そこに全部発注して、そこからさらに今まで下請事業者だったところに発注すれば、下請法の適用を免れることになるのでしょうか。
これを認めると下請法が簡単に骨抜きになってしまうため、A社とB社とが直接取引をすれば下請法の適用があることを前提に、①A社がC社を支配していること、及び、②A社からC社が発注を受けたものの相当部分をC社がB社に再委託することという要件を満たせば、C社が親事業者、B社が下請事業者とみなされることになります。
以上は、下請法の条文(2条9項)に書いてあることですが、間に別会社が介在する場合の例として、公正取引委員会と中小企業庁が作成している下請取引適正化推進講習会のテキスト(http://www.jftc.go.jp/sitauke/23textbook.pdf)の16ページには、商社が関与する場合の記載があります。
これによると、例えばD社(親事業者)とE社(下請事業者)との間に商社(F社)が介在した場合、F社がD社とF社の取引の内容(製品仕様、下請事業者の選定、下請代金の額の決定等)に関与する場合か否かで場合分けされることになります。
そして、関与しないのであれば、D社が親事業者、E社が下請事業者となり、関与するのであれば、D社とF社、F社とE社が、それぞれ親事業者と下請事業者になるとされています(他の要件は満たすものとします)。
なお、「商社」となってはおりますが、「商社」自体明確な概念ではないので(ちなみに手元の辞書(大辞林第3版)では「商品取引を事業の中心とする会社」となっております)、このテキストの考え方は、間に別会社が介在する場合全般に妥当するものと思います。
とすると、F社が取引の内容には関与しないものの、上記の①と②の要件を満たして親事業者とみなされる場合にどうなるのかということが問題になるかと思います。
普通に考えると、D社とF社がともに親事業者となりそうですが、条文で規定されたトンネル会社の場合でさえ、間に入った会社が親事業者とみなされるだけなのと比べると、明らかに均衡を欠く、というか、矛盾するように思います。
やはり、F社が取引の内容に関与しない場合にはD社を親事業者とする構成そのものに無理があるのではないでしょうか。
上記のように、D社⇒F社(商社)⇒E社で発注がなされる場合、直接の取引相手ではないにもかかわらず、D社を親事業者、E社を下請事業者とすると、D社は、目的物の受領後60日以内に下請代金を支払わなければなりませんが、D社がF社に支払うだけでは足りず、F社からE社への支払いが60日以内に完了している必要があります。
この点、上記のテキスト40ページには、「商社を経由して下請代金を支払う場合は、あらかじめ商社から下請事業者にいつ下請代金が支払われるのか確認し、支払期日までに下請事業者に下請代金が支払われるように商社との間で事前に取決めを行っておく必要がある」との記載があります。しかし、F社がそのような取決めを拒んだらどうするのでしょうか(まさか公正取引委員会が無理矢理飲ませろ、飲まなければ取引から外せ、とは言わないと思いますが・・・)。また、取り決めをしたもののF社がそれを守らなかった場合、D社が下請法違反の責めを負うことになりますが、それでもよいのでしょうか。
その他にも、発注書面はどちらに出せばよいのか、F社が手数料を取ったら下請代金の減額になるのかなどの問題も考えられるでしょう。自らのあずかり知らぬところで法律違反の問題が生じるのは、D社に酷なのではないかと思います。
そもそも、F社が関与することになる場合として考えられるのはどのような場合でしょうか。
色々あるかと思いますが、大きく分けて、
ア F社がD社の依頼を受けるなどしてE社を探してきた場合
イ D社が発注部門を子会社などの別会社に委託する場合
の2つではないでしょうか。
アの場合は、下請事業者の選定という取引の内容に関与しておりますから、D社は、E社との関係で親事業者とはならない場合になります。
イの場合、おそらく①の支配の要件を満たすことになると思いますから、後は②の要件を満たす場合に、E社を親事業者とみなせばよい、ということになります。
私はこれで十分ではないかと思います。