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親事業者の遵守事項⑥~下請代金の減額の禁止②
(4)減額の正当化事由
それでは、減額が正当化されるのは、どのような場合なのでしょうか。テキストには、ほぼ唯一の正当化事由として、「ボリュームディスカウント」が挙げられています。このボリュームディスカウントとは、「親事業者が、下請事業者に対し、一定期間内に、一定数量を超えた発注をした場合に、下請事業者が親事業者に支払う割戻金」のことです。つまり、この割戻金分を下請代金から差し引いて支払っても、下請代金の減額にはならないことになります。
もっとも、当然のことですが、ボリュームディスカウントと銘打てば、減額が正当化されるというわけではなく、一定の要件があります。
まず、形式的には、
①ボリュームディスカウントの内容・条件について、書面で合意されていること
②その書面の記載と3条書面に記載されている下請代金の額とを併せて実際の下請代金の額とすることが合意されていること
③3条書面とその書面との関連づけがなされていること
が必要になります。
①と③は問題ないと思いますが、②は、何を言っているのか少々分かりづらいかも知れません。これは、ボリュームディスカウントの条件を満たした場合、3条書面に記載されている下請代金の額からそれを控除した金額を親事業者が支払うことになりますが、そのままだと減額になる(減額を疑われる)ことになるので、ボリュームディスカウントによる割戻金分が支払われなくとも、引かれた額を支払った金額に足した金額が、実際の下請代金の額となります、ということを書面で合意しておいて下さい、ということです。
合意しても減額は減額だ、という公正取引委員会の扱いとも矛盾するように思いますが、そこは目をつぶるのでしょうか。
また、実質的な条件ですが、割戻金を払っても、発注数量の増加により、下請事業者の得られる利益が実際に増加していることが求められます。
なので、以下のような場合は、ボリュームディスカウントには該当しないことになります。
①対象品目が特定されていない発注総額の増加のみを理由に割戻金を求めること。
②単に、将来の一定期間における発注数量を定め、発註数量の実績がそれを上回ることだけで割戻金を求めること。
発註数量の増加によって下請代金の額を調整したいのであれば、ボリュームディスカウントについては(もっといえば減額については)要件が厳しいので、数量に応じた単価をあらかじめ定めておく方がよいのではないかと思います。例えば、1万個までは1個あたり100円とするが、1万1個からは、1個あたり75円にする、といったやり方です。これであれば、対価を決める際の問題なので、買いたたきにならないように注意すればよいからです。
(5)実務上注意すべき「減額」
①改定単価の遡及適用
単価の改定自体は減額の問題ではありませんが(やり方次第で買いたたきの問題は生じますが)、低額改定した単価を、発註済でまだ支払いがきていない取引にまで遡って適用すると、その分について、下請代金の減額となります。
下請事業者との間の合意は減額を正当化しませんので、既発注で支払いがまだきていないものについても引き下げられた新単価を適用すると、仮にそのような取扱について下請事業者と合意していても下請代金の減額となります。
単価を引き下げた場合には、その単価の適用は、引き下げ後の発注分からという点に注意して下さい。
②振込手数料の控除
下請代金を下請事業者の銀行口座に振り込んで支払う場合、何も合意していないと、通常は、支払う側の(つまり債務者である)親事業者が振込手数料を負担することになります。
にもかかわらず、親事業者が勝手に振込手数料を控除すると、当然のことですが、その分下請代金の減額になります。
もっとも、これについては、事前に書面で合意している場合に限り、振込手数料の実費相当額を下請事業者の負担とすることが認められています。これも、合意によって減額でなくなる例といえるでしょう。
減額が認められるのは、実際の振込手数料の範囲内に限られますので、例えば、手数料相当額として、一律1000円を減額するという方法は認められません。
③手形払いに替えた現金払い
下請代金を手形で支払うことも認められていますが、これを下請事業者の要請によって現金払いに替えた場合、手形の額面相当額を現金で支払えば何の問題もありませんが、親事業者からすれば、手形期間満了時までに用意しておけばよかった現金を、下請代金の支払期日までに用意しなければならなくなります。
そこで、このような場合、親事業者の短期調達金利相当額を減額して支払うことが認められています(当然ですが、それ以上減額すると違法になります)。
たまに、契約上は手形払いになっているにも拘わらず、現金での支払いが常態化していることがあります。この場合、現金払いに契約が変更されていると考えられますので、仮に親事業者の短期調達金利相当額であっても、減額すると違法になります。
④端数の切り捨て
下請代金に一円未満の端数が生じた場合、支払の時点で円未満を切り捨てることは、減額には当たらないとされています。
もっとも、一円以上の単位で切り捨てると減額になるので注意が必要です。
親事業者の遵守事項⑥~下請代金の減額の禁止①
(1)勧告対象のほとんどが「減額」
親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請代金の額を減額してはならないとされています。
これは、「下請代金の減額」といわれる違反行為です。
公正取引委員会が行う勧告(下請法7条)の対象になることが最も多いのが、この下請代金の減額です(ちなみに平成25年度に出された10件の勧告のうち、9件がこの下請代金の減額を対象とするものになります)。
勧告及び指導を含めた平成25年度の違反行為2250件の中でも、減額は228件と、支払遅延に次いで2番目に多いものとなっています。
参考:http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h26/jun/140604.files/260604.pdf
(2)「減額」とはどんな行為?
この違反行為を理解するポイントは
①「下請代金の減額」とは何か?
②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?
ということになります。
まず①ですが、「下請代金」については、下請法に定義が規定されており、「親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付(役務提供委託をした場合にあっては、役務の提供。)に対して支払うべき代金」(下請法2条10項)なので(ここには消費税・地方消費税相当額も含まれます)、この額を減らすと、「減額」になります。
下請代金の額は、発注段階で決定しているのが原則ですが、それを、発注後に決定どおり支払わないと、この減額が問題になるのです。この点、非常に判定の容易な行為といえるでしょう。
この減額ですが、親事業者が有無を言わさずに下請代金から差し引けば当然該当することになりますが、下請事業者が了解した上で下請代金から差し引いても、少なくとも公正取引委員会の見解では、違法な減額ということになるので注意が必要です。
また、過去の勧告事例等を見てみますと、実に様々な名目で減額が行われているようですが、名目の如何によって減額が正当化されることはありません。減額を回避しうる適当な名目はないかと頭を悩ませるのは、余り意味があることではありませんので、避けた方がよいと思います。
(3)下請事業者に責任がある場合とは?
減額も、下請事業者に責任があれば、違法ではありません。
もっとも、下請事業者に責任があると認められているのは、以下の場合だけです。
① 下請事業者に責任があるとして、「受領拒否」又は「返品」した場合に、その分を下請代金から減額するとき。
② 下請事業者に責任があるとして、「受領拒否」又は「返品」できるのに、そうしないで、親事業者自らが手直しし、手直しに要した費用を減額するとき。
③ 瑕疵や納期の遅れによって商品価値の低下が明らかな場合、客観的に見て相当と認められる額を減額するとき。
①は、そもそも受け取っていないのですから、代金を支払う必要はなく、下請代金を減額した場合には該当しないと思います。
②は、手直し費用の算定が明確にできないと、手直し費用の名目で不当に多くの費用を減らしたということになります。その場合は減額とされるおそれがあるので、実務上それほど登場するものではないかと思います。
③も同様に、「客観的に見て相当と認められる額」を親事業者が判断して減額を行うのは、実際には勇気のいる行為ではないかと思います。
結局、下請事業者に責任があるといえる場合は、ほとんど想定しがたいと考えておいた方が安全だといえるでしょう。「3条書面に記載された金額は、きちんと払う。」という原則をきちんと守るということが、この減額の禁止の違反を防ぐということになります。
親事業者の遵守事項⑤~不当な給付内容の変更及びやり直しの禁止
親事業者は、下請事業者に責任がないのに、給付内容を変更したり、下請事業者の給付を受領した後に、給付をやり直させたりして、下請事業者の利益を不当に害してはならないとされています。
これは、「不当な給付内容の変更及びやり直し」といわれる違反行為です。
この規定には、「給付内容の変更」と「やり直し」という二つの行為が含まれておりますが、両者の違いは、給付を受領する前か後かということになります。
すなわち、「給付の受領前に、3条書面に記載されている委託内容を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせること」が「給付内容の変更」で、「給付の受領後に、給付に関して追加的な作業を行わせること」が「やり直し」になります。
この違反行為のポイントは
①「給付内容の変更」「やり直し」とは何か?
②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?
また、4条2項の禁止事項なので、
③「下請事業者の利益を不当に害する」とはどういうことか?
ということも検討する必要があります。
また、「やり直し」については、受領後の行為ですので、「返品」同様
④「やり直し」させることのできる期間
も問題になります。
①については、既に述べたとおりですが、完成前に発注を取り消す行為なども「給付内容の変更」に該当することになります。
②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。
ア 下請事業者の要請により給付の内容を変更する場合
イ 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)
ウ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)
イとウについては、給付の受領前と受領後のどちらについても考えられます。
アは、親事業者からではなく、下請事業者の方から、「このように変更したい」というような申し出があり、親事業者が了承することによって変更される場合になります(性質上、このような「やり直し」はないと思われます)。親事業者から無償での変更の申し出があり、それを下請事業者が了解した場合であっても下請法の違反になるという公正取引委員会の考え方からすると、なぜ突然アがここに含まれるのか、若干違和感があります。むしろこのような場合、下請事業者からすれば、より負担が少なくなるから要請を行っていると考えられますから、次の③の要件の問題とすればよいのではないかと思います。
③の要件ですが、これについては、「給付内容の変更」又は「やり直し」をさせると、下請事業者にどのような不利益があるのか、それを補うにはどうすればよいのかという観点から考えると分かりよいと思います。すなわち、下請事業者は、これらの作業によって、追加費用の支出を強いられますが、それさえ親事業者が負担してくれれば、下請事業者は利益を害されないということになります(と公正取引委員会は考えているようです)。なので、この増加費用さえ親事業者が負担すれば、下請事業者の利益を不当に害していないということになるのです。
実務上は、給付内容の変更・やり直しに際し、まず、下請事業者に増加費用を確認することになるでしょう。下請事業者の側からは、一定の金額が提示されることになるでしょうが、下請事業者の言い値を支払わなければならないということはなく、本当に増加費用といえるのかという点について、お互い協議して判定するということも当然認められると思います。
下請事業者が、増加費用なしと回答してきた場合には、親事業者は何ら負担しなくても、下請事業者の利益を不当に害したことにはならないでしょう。
最後の④については、隠れた瑕疵があった場合の問題ですが、返品できる期間が原則6か月であったのに対し、「やり直し」の場合は、原則1年間とされています。
もっとも、親事業者が取引先に対して、1年を超える瑕疵担保期間を定めている場合に親事業者と下請事業者との間でそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合には、その期間内であれば1年を超えてやり直しをさせてもよいことになっています。返品のような上限がないので、理論上は、親事業者の定める瑕疵担保期間の範囲内であれば、3年でも5年でもやり直しをさせてもよいことになります。もっとも、当然のことですが、当該瑕疵が下請事業者の責任で生じたといえることは必要となります。
なお、「返品」と「やり直し」の期間の上限に関するテキストの文言には、若干の違いがあります。
既に見ましたが、「返品」の場合は、「一般消費者に対して6か月を超えて品質保証期間を定めている場合には、その保証期間に応じて最長1年以内であれば親事業者は下請事業者に返品することができる。」と規定されています。
一方「やり直し」の場合は、「親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に、親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合は除く」(1年を超えてやり直しをさせてもよい)となっています。
一番の違いは、返品については、親事業者と下請事業者の間であらかじめ返品について定めることが(少なくとも記載上は)求められていないということです。返品については、やり直しより厳格に考えられるはずなのに、なぜこのような違いを設けたのか不明で、常々不思議に思っているのですが、返品に関しても下請事業者とあらかじめ合意しておくに越したことはないと思います。
親事業者の遵守事項④~返品
親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付物を引き取らせてはならないとされています。
これは、「返品」といわれる違反行為です。
この違反行為のポイントは
①「返品」とは何か?
②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?
ですが、条文には明記されていないものの、運用上追加されている条件として、
③「返品」できる条件~受入検査の有無
④「返品」できる期間
も覚えておかなければならないでしょう。
①の「返品」ですが、これは、親事業者が一旦受領したものを、下請事業者に返すことです。一旦受け取った後返すので、「受領拒否」とは異なります。また、返して再度受け取らない点が、「やり直し」とも異なることになります。返品も有体物が前提となっているので、役務提供委託には適用されません。
②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。
ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)
イ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)
受領拒否と異なり、納期遅れを理由とする返品は認められません。
また、返品が認められる前提として、親事業者は、受入検査を行っている必要があります(③)。これを怠ると、いかなる理由があっても、「返品」は認められないことになりますから、注意が必要です。
④については、隠れた瑕疵があった場合の問題ですが、返品できる期間は、原則6か月(かつ、瑕疵に気づいたら速やかに返品する)となります。
もっとも、親事業者が一般消費者に対して、6か月を超える保証期間を定めている場合には、その期間内であって、かつ、最長1年までは返品してもよいことになっています。
この「保証期間」ですが、これについてはユーザーの手に渡ってから壊れたような場合も対象になるのが通常「ユーザー保証期間」といわれているものだと思いますが、もちろん、返品が認められるのは、下請事業者による瑕疵の場合に限られます。また、このような場合、通常は良品と取り替えるなど、「やり直し」で処理されるでしょうから、余り、この返品の例外が認められることはないように思います。
親事業者の遵守事項③~受領拒否
親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請事業者の給付の受領を拒んではならないとされています。
これは、「受領拒否」といわれる違反行為ですが、この違反行為のポイントは
①「受領」を「拒む」とは何か?
②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?
になります。
①の「受領」ですが、これは、親事業者が納入物を事実上の支配下に置くこととされています。親事業者が受け取れば当然受領ですが、親事業者が指定した先が受け取っても、受領になります。有体物が前提となっているので、役務提供委託には適用されません。
この「受領」を「拒む」と、「受領拒否」ということになります。
下請事業者が持ってきたものを受け取らないというのが典型ですが、発注の取り消しや納期の延期なども、既にものが完成しており、受領しようと思えばできる状態にあるのであれば、受領拒否に該当します。
②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。
ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)
イ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)
ウ 下請事業者の給付が3条書面に明記された納期に行われない場合(納期遅れ等)
受領を拒むという実行行為については、それほど問題ないと思いますから、もし、受領を拒む場合には、その理由が何であるかを検討していただければ、受領拒否の違反になるか否かがすぐに分かることになります。
すなわち、その理由が、上記のア~ウであれば大丈夫、それ以外の理由であれば、違反、ということになります。
※最近、返品と受領拒否の違いについて質問を受け、気づいたことですが、上記のア及びイの理由は、受領後に判明することが通常でしょうから、アとイを理由とする受領拒否は、既に親事業者が目的物を支配下に置いた(受領した)後で判明することなので、事実上、ほとんどあり得ないのではないかと思います。あるとすれば、納品物を見た瞬間に瑕疵等が判明したので受け取らない、というような場合に限られるでしょう。