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親事業者の遵守事項⑥~下請代金の減額の禁止①

2014-07-03

(1)勧告対象のほとんどが「減額」

親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請代金の額を減額してはならないとされています。

これは、「下請代金の減額」といわれる違反行為です。

公正取引委員会が行う勧告(下請法7条)の対象になることが最も多いのが、この下請代金の減額です(ちなみに平成25年度に出された10件の勧告のうち、9件がこの下請代金の減額を対象とするものになります)。

勧告及び指導を含めた平成25年度の違反行為2250件の中でも、減額は228件と、支払遅延に次いで2番目に多いものとなっています。

参考:http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h26/jun/140604.files/260604.pdf

 

(2)「減額」とはどんな行為?

この違反行為を理解するポイントは

①「下請代金の減額」とは何か?

②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?

ということになります。

まず①ですが、「下請代金」については、下請法に定義が規定されており、「親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付(役務提供委託をした場合にあっては、役務の提供。)に対して支払うべき代金」(下請法2条10項)なので(ここには消費税・地方消費税相当額も含まれます)、この額を減らすと、「減額」になります。

下請代金の額は、発注段階で決定しているのが原則ですが、それを、発注後に決定どおり支払わないと、この減額が問題になるのです。この点、非常に判定の容易な行為といえるでしょう。

この減額ですが、親事業者が有無を言わさずに下請代金から差し引けば当然該当することになりますが、下請事業者が了解した上で下請代金から差し引いても、少なくとも公正取引委員会の見解では、違法な減額ということになるので注意が必要です。

また、過去の勧告事例等を見てみますと、実に様々な名目で減額が行われているようですが、名目の如何によって減額が正当化されることはありません。減額を回避しうる適当な名目はないかと頭を悩ませるのは、余り意味があることではありませんので、避けた方がよいと思います。

 

(3)下請事業者に責任がある場合とは?

減額も、下請事業者に責任があれば、違法ではありません。

もっとも、下請事業者に責任があると認められているのは、以下の場合だけです。

① 下請事業者に責任があるとして、「受領拒否」又は「返品」した場合に、その分を下請代金から減額するとき。

② 下請事業者に責任があるとして、「受領拒否」又は「返品」できるのに、そうしないで、親事業者自らが手直しし、手直しに要した費用を減額するとき。

③  瑕疵や納期の遅れによって商品価値の低下が明らかな場合、客観的に見て相当と認められる額を減額するとき。

①は、そもそも受け取っていないのですから、代金を支払う必要はなく、下請代金を減額した場合には該当しないと思います。

②は、手直し費用の算定が明確にできないと、手直し費用の名目で不当に多くの費用を減らしたということになります。その場合は減額とされるおそれがあるので、実務上それほど登場するものではないかと思います。

③も同様に、「客観的に見て相当と認められる額」を親事業者が判断して減額を行うのは、実際には勇気のいる行為ではないかと思います。

結局、下請事業者に責任があるといえる場合は、ほとんど想定しがたいと考えておいた方が安全だといえるでしょう。「3条書面に記載された金額は、きちんと払う。」という原則をきちんと守るということが、この減額の禁止の違反を防ぐということになります。

 

親事業者の遵守事項⑤~不当な給付内容の変更及びやり直しの禁止

2014-02-13

親事業者は、下請事業者に責任がないのに、給付内容を変更したり、下請事業者の給付を受領した後に、給付をやり直させたりして、下請事業者の利益を不当に害してはならないとされています。

これは、「不当な給付内容の変更及びやり直し」といわれる違反行為です。

この規定には、「給付内容の変更」と「やり直し」という二つの行為が含まれておりますが、両者の違いは、給付を受領する前か後かということになります。

すなわち、「給付の受領前に、3条書面に記載されている委託内容を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせること」が「給付内容の変更」で、「給付の受領後に、給付に関して追加的な作業を行わせること」が「やり直し」になります。

この違反行為のポイントは

①「給付内容の変更」「やり直し」とは何か?

②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?

また、4条2項の禁止事項なので、

③「下請事業者の利益を不当に害する」とはどういうことか?

ということも検討する必要があります。

また、「やり直し」については、受領後の行為ですので、「返品」同様

④「やり直し」させることのできる期間

も問題になります。

①については、既に述べたとおりですが、完成前に発注を取り消す行為なども「給付内容の変更」に該当することになります。

②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。

ア 下請事業者の要請により給付の内容を変更する場合

イ 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)

ウ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)

イとウについては、給付の受領前と受領後のどちらについても考えられます。

アは、親事業者からではなく、下請事業者の方から、「このように変更したい」というような申し出があり、親事業者が了承することによって変更される場合になります(性質上、このような「やり直し」はないと思われます)。親事業者から無償での変更の申し出があり、それを下請事業者が了解した場合であっても下請法の違反になるという公正取引委員会の考え方からすると、なぜ突然アがここに含まれるのか、若干違和感があります。むしろこのような場合、下請事業者からすれば、より負担が少なくなるから要請を行っていると考えられますから、次の③の要件の問題とすればよいのではないかと思います。

③の要件ですが、これについては、「給付内容の変更」又は「やり直し」をさせると、下請事業者にどのような不利益があるのか、それを補うにはどうすればよいのかという観点から考えると分かりよいと思います。すなわち、下請事業者は、これらの作業によって、追加費用の支出を強いられますが、それさえ親事業者が負担してくれれば、下請事業者は利益を害されないということになります(と公正取引委員会は考えているようです)。なので、この増加費用さえ親事業者が負担すれば、下請事業者の利益を不当に害していないということになるのです。

実務上は、給付内容の変更・やり直しに際し、まず、下請事業者に増加費用を確認することになるでしょう。下請事業者の側からは、一定の金額が提示されることになるでしょうが、下請事業者の言い値を支払わなければならないということはなく、本当に増加費用といえるのかという点について、お互い協議して判定するということも当然認められると思います。

下請事業者が、増加費用なしと回答してきた場合には、親事業者は何ら負担しなくても、下請事業者の利益を不当に害したことにはならないでしょう。

最後の④については、隠れた瑕疵があった場合の問題ですが、返品できる期間が原則6か月であったのに対し、「やり直し」の場合は、原則1年間とされています。

もっとも、親事業者が取引先に対して、1年を超える瑕疵担保期間を定めている場合に親事業者と下請事業者との間でそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合には、その期間内であれば1年を超えてやり直しをさせてもよいことになっています。返品のような上限がないので、理論上は、親事業者の定める瑕疵担保期間の範囲内であれば、3年でも5年でもやり直しをさせてもよいことになります。もっとも、当然のことですが、当該瑕疵が下請事業者の責任で生じたといえることは必要となります。

 

なお、「返品」と「やり直し」の期間の上限に関するテキストの文言には、若干の違いがあります。

既に見ましたが、「返品」の場合は、「一般消費者に対して6か月を超えて品質保証期間を定めている場合には、その保証期間に応じて最長1年以内であれば親事業者は下請事業者に返品することができる。」と規定されています。

一方「やり直し」の場合は、「親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に、親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合は除く」(1年を超えてやり直しをさせてもよい)となっています。

一番の違いは、返品については、親事業者と下請事業者の間であらかじめ返品について定めることが(少なくとも記載上は)求められていないということです。返品については、やり直しより厳格に考えられるはずなのに、なぜこのような違いを設けたのか不明で、常々不思議に思っているのですが、返品に関しても下請事業者とあらかじめ合意しておくに越したことはないと思います。

 

親事業者の遵守事項④~返品

2014-02-07

親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付物を引き取らせてはならないとされています。

これは、「返品」といわれる違反行為です。

この違反行為のポイントは

①「返品」とは何か?

②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?

ですが、条文には明記されていないものの、運用上追加されている条件として、

③「返品」できる条件~受入検査の有無

④「返品」できる期間

も覚えておかなければならないでしょう。

 

①の「返品」ですが、これは、親事業者が一旦受領したものを、下請事業者に返すことです。一旦受け取った後返すので、「受領拒否」とは異なります。また、返して再度受け取らない点が、「やり直し」とも異なることになります。返品も有体物が前提となっているので、役務提供委託には適用されません。

②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。

ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)

イ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)

受領拒否と異なり、納期遅れを理由とする返品は認められません。

また、返品が認められる前提として、親事業者は、受入検査を行っている必要があります(③)。これを怠ると、いかなる理由があっても、「返品」は認められないことになりますから、注意が必要です。

④については、隠れた瑕疵があった場合の問題ですが、返品できる期間は、原則6か月(かつ、瑕疵に気づいたら速やかに返品する)となります。

もっとも、親事業者が一般消費者に対して、6か月を超える保証期間を定めている場合には、その期間内であって、かつ、最長1年までは返品してもよいことになっています。

この「保証期間」ですが、これについてはユーザーの手に渡ってから壊れたような場合も対象になるのが通常「ユーザー保証期間」といわれているものだと思いますが、もちろん、返品が認められるのは、下請事業者による瑕疵の場合に限られます。また、このような場合、通常は良品と取り替えるなど、「やり直し」で処理されるでしょうから、余り、この返品の例外が認められることはないように思います。

 

親事業者の遵守事項③~受領拒否

2014-01-24

親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請事業者の給付の受領を拒んではならないとされています。

これは、「受領拒否」といわれる違反行為ですが、この違反行為のポイントは

①「受領」を「拒む」とは何か?

②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?

になります。

①の「受領」ですが、これは、親事業者が納入物を事実上の支配下に置くこととされています。親事業者が受け取れば当然受領ですが、親事業者が指定した先が受け取っても、受領になります。有体物が前提となっているので、役務提供委託には適用されません。

この「受領」を「拒む」と、「受領拒否」ということになります。

下請事業者が持ってきたものを受け取らないというのが典型ですが、発注の取り消しや納期の延期なども、既にものが完成しており、受領しようと思えばできる状態にあるのであれば、受領拒否に該当します。

②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。

ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)

イ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)

ウ 下請事業者の給付が3条書面に明記された納期に行われない場合(納期遅れ等)

受領を拒むという実行行為については、それほど問題ないと思いますから、もし、受領を拒む場合には、その理由が何であるかを検討していただければ、受領拒否の違反になるか否かがすぐに分かることになります。

すなわち、その理由が、上記のア~ウであれば大丈夫、それ以外の理由であれば、違反、ということになります。

※最近、返品と受領拒否の違いについて質問を受け、気づいたことですが、上記のア及びイの理由は、受領後に判明することが通常でしょうから、アとイを理由とする受領拒否は、既に親事業者が目的物を支配下に置いた(受領した)後で判明することなので、事実上、ほとんどあり得ないのではないかと思います。あるとすれば、納品物を見た瞬間に瑕疵等が判明したので受け取らない、というような場合に限られるでしょう。

 

親事業者の遵守事項②~買いたたき

2014-01-22

親事業者は、発注に際して下請代金の額を決定する際に、発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対し、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めてはならないとされています。

これは、「買いたたき」といわれる違反行為ですが、この違反行為のポイントは

①「通常支払われる対価」とは何か?

②「不当に定める」とはどういうことか?

になります。

まず、①ですが、テキストによると、これは、

(ア) 同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)について実際に行われている取引の価格(すなわち市価)のことをいう。

(イ) 市価の把握が困難な場合は、それと同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)に係る従来の取引価格をいう。

となっています。

しかしながら、下請取引の性質上、市価があるのは原材料など限られたものだと思いますし、「同種又は類似」というのも同様だと思いますから、これでは余り参考にならないように思います。

さらに、「通常支払われるべき対価」というものが仮にあるとしても、外部の第三者がそれを認定するのは、通常困難でしょう。

加えて、要件としては、それから著しく低いとされた場合に違法となるというのですから、どのくらい低いと「著しい」のかという、これまた困難な問題を解決しなければなりません。

なので、このような認定の難しい要件に頭を悩ませるのであれば、むしろ②の要件の方に対応する方が実務的であると思います。

では、どうすれば「不当に定めた」といわれずに済むのでしょうか。

過去の指導事例を見ると、買いたたきによく使われている表現が「下請事業者と十分な協議をすることなく」とか「一方的に」といったものです。

ここから推測すると、「下請代金は、親事業者が一方的に決めず、下請事業者と十分協議して決めなさい(あるいは見積もりを取ったなら、その通りに発注しなさい)」ということが、親事業者に求められている行為であり、それを怠ると、「不当に定めた」となると考えられます。

従って、買いたたきは、いくらにするのかという価格そのものよりも、まずは、どのようにして決めるのかという手続きに注意すれば、違反を回避できるものといってよいでしょう。

後は、下請事業者から下請代金の値上げについて申し入れがあった場合は、きちんと対応することも必要だと思います。そのような場合に、協議もせずに従来どおりの単価を使用し続けると、「不当」とされる場合もありえます。

買いたたきは、上記のように要件が難しいせいか、余り勧告の対象とはなっておりません。

例外は、平成19年12月6日勧告の事件です。これは、当初下請代金から「出精値引」として一定率を減額していたH社が、公正取引委員会の調査が入ったことを契機として、減額ではなく、下請代金そのものを同程度引き下げたというものです。

確かに、事後的に下請代金から差し引いていないため、減額には該当しないですが、時期的にみて、かなり挑発的だったように思います。

H社は、これによって、減額と買いたたきで勧告を受けることとなってしまいました。

※本稿掲載後、買いたたきの勧告が出されました。

http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h26/jul/140715.files/140715.pdf

買いたたきの部分に関しては、

「D社は、平成24年11月から平成25年11月までの間に、商品の売行きが悪いことを理由として、発注前に下請事業者と協議して決定していた予定単価を約59パーセントから約67パーセント引き下げた単価を定めて発注した。当該予定単価を用いて計算した代金の額と実際の下請代金の額との差額は、総額657万8897円である(下請事業者2名)。」

というものです。

ここでもやはり、「通常支払われる対価に比べて著しく低いかどうか」は、少なくとも文書上は問題とされてはおりません(上記のような引き下げをすれば、経験則上当然該当するとは思いますが)。

ここでもやはり、一度協議して決めた単価を一方的に引き下げたことが問題にされたと考えられます。

 

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