親事業者の遵守事項⑥~下請代金の減額の禁止②

2014-07-14

(4)減額の正当化事由

それでは、減額が正当化されるのは、どのような場合なのでしょうか。テキストには、ほぼ唯一の正当化事由として、「ボリュームディスカウント」が挙げられています。このボリュームディスカウントとは、「親事業者が、下請事業者に対し、一定期間内に、一定数量を超えた発注をした場合に、下請事業者が親事業者に支払う割戻金」のことです。つまり、この割戻金分を下請代金から差し引いて支払っても、下請代金の減額にはならないことになります。

もっとも、当然のことですが、ボリュームディスカウントと銘打てば、減額が正当化されるというわけではなく、一定の要件があります。

まず、形式的には、

①ボリュームディスカウントの内容・条件について、書面で合意されていること

②その書面の記載と3条書面に記載されている下請代金の額とを併せて実際の下請代金の額とすることが合意されていること

③3条書面とその書面との関連づけがなされていること

が必要になります。

①と③は問題ないと思いますが、②は、何を言っているのか少々分かりづらいかも知れません。これは、ボリュームディスカウントの条件を満たした場合、3条書面に記載されている下請代金の額からそれを控除した金額を親事業者が支払うことになりますが、そのままだと減額になる(減額を疑われる)ことになるので、ボリュームディスカウントによる割戻金分が支払われなくとも、引かれた額を支払った金額に足した金額が、実際の下請代金の額となります、ということを書面で合意しておいて下さい、ということです。

合意しても減額は減額だ、という公正取引委員会の扱いとも矛盾するように思いますが、そこは目をつぶるのでしょうか。

また、実質的な条件ですが、割戻金を払っても、発注数量の増加により、下請事業者の得られる利益が実際に増加していることが求められます。

なので、以下のような場合は、ボリュームディスカウントには該当しないことになります。

①対象品目が特定されていない発注総額の増加のみを理由に割戻金を求めること。

②単に、将来の一定期間における発注数量を定め、発註数量の実績がそれを上回ることだけで割戻金を求めること。

発註数量の増加によって下請代金の額を調整したいのであれば、ボリュームディスカウントについては(もっといえば減額については)要件が厳しいので、数量に応じた単価をあらかじめ定めておく方がよいのではないかと思います。例えば、1万個までは1個あたり100円とするが、1万1個からは、1個あたり75円にする、といったやり方です。これであれば、対価を決める際の問題なので、買いたたきにならないように注意すればよいからです。

 

(5)実務上注意すべき「減額」

①改定単価の遡及適用

単価の改定自体は減額の問題ではありませんが(やり方次第で買いたたきの問題は生じますが)、低額改定した単価を、発註済でまだ支払いがきていない取引にまで遡って適用すると、その分について、下請代金の減額となります。

下請事業者との間の合意は減額を正当化しませんので、既発注で支払いがまだきていないものについても引き下げられた新単価を適用すると、仮にそのような取扱について下請事業者と合意していても下請代金の減額となります。

単価を引き下げた場合には、その単価の適用は、引き下げ後の発注分からという点に注意して下さい。

②振込手数料の控除

下請代金を下請事業者の銀行口座に振り込んで支払う場合、何も合意していないと、通常は、支払う側の(つまり債務者である)親事業者が振込手数料を負担することになります。

にもかかわらず、親事業者が勝手に振込手数料を控除すると、当然のことですが、その分下請代金の減額になります。

もっとも、これについては、事前に書面で合意している場合に限り、振込手数料の実費相当額を下請事業者の負担とすることが認められています。これも、合意によって減額でなくなる例といえるでしょう。

減額が認められるのは、実際の振込手数料の範囲内に限られますので、例えば、手数料相当額として、一律1000円を減額するという方法は認められません。

③手形払いに替えた現金払い

下請代金を手形で支払うことも認められていますが、これを下請事業者の要請によって現金払いに替えた場合、手形の額面相当額を現金で支払えば何の問題もありませんが、親事業者からすれば、手形期間満了時までに用意しておけばよかった現金を、下請代金の支払期日までに用意しなければならなくなります。

そこで、このような場合、親事業者の短期調達金利相当額を減額して支払うことが認められています(当然ですが、それ以上減額すると違法になります)。

たまに、契約上は手形払いになっているにも拘わらず、現金での支払いが常態化していることがあります。この場合、現金払いに契約が変更されていると考えられますので、仮に親事業者の短期調達金利相当額であっても、減額すると違法になります。

④端数の切り捨て

下請代金に一円未満の端数が生じた場合、支払の時点で円未満を切り捨てることは、減額には当たらないとされています。

もっとも、一円以上の単位で切り捨てると減額になるので注意が必要です。