フランチャイズ契約上の競業避止義務①
1.競業避止義務条項の趣旨
フランチャイズ契約では、競業避止義務条項を設けることが通常です。競業避止義務条項が設けられる理由は、企業秘密やノウハウの保護、顧客の誤認防止などですが、守秘義務条項やノウハウの流用禁止条項だけでなく、なぜ、競業避止義務条項が必要になるのかといえば、企業秘密やノウハウ、特に後者については、その内容や侵害(流用)の有無・程度を権利者において正確に判断し、主張・立証することが難しいからです。
フランチャイズ・システム、特にいわゆるビジネス・フォーマット型といわれるフランチャイズ・システムにおいては、フランチャイジーに対するノウハウの提供が契約における主要な柱となっていますが、本来秘密であるはずのノウハウがフランチャイジーに開示されてしまうため(のみならず、それを使って商売ができるように指導まで受けられます)、フランチャイザーにおいては、より一層その保護が重要になるのです。にもかかわらず、違反行為を明確にすることが困難であるとするとフランチャイザーが困るので、ノウハウの開示後、競合する事業という外見上比較的判別の容易な指標を設け、これを行えばノウハウの侵害があるものと擬製したのです。
なお、競業避止義務については、フランチャイズ契約期間中のものとフランチャイズ契約終了後のものに分けられますが、実務上は、契約終了後の方が問題になることが多いといえるでしょう。契約期間中は、違反行為によってフランチャイズ契約が解除されてしまうリスクがあるからです。
2.フランチャイズ契約書上の競業避止義務条項
フランチャイズ契約書上の競業避止義務条項を考えるに当たっては、以下のような点が重要になります。
① そもそも「競業」を禁止してもよいのか。
② 禁止しうるとして、何をどの程度禁止すればよいのか。
③ フランチャイジーの潜脱行為をどうやって防ぐのか。
④ どうやって実効性を確保するのか。
3.競業禁止の可否
①についていえば、フランチャイジーの競業を禁止する趣旨が上記のようなものであることから、通常は、合理的な範囲でフランチャイジーの競業を禁止することは、フランチャイズ契約終了後のものも含めて許されると考えられており、過去の裁判例においても、競業避止義務条項は通常有効なものとして扱われています。
4.禁止の程度
(1)禁止の限界
②については、フランチャイザーの側からすれば、できるだけ多くの(長期間の)制約を課したいということになりますが、一方で、フランチャイジーの側からすると、特に契約終了後に長期間競業を禁じられることは、事業経営上大きな制約となり、場合によっては、その職業選択の自由を侵害することになりかねません。そこで、競業を禁止できるとしても、自ずと限界があることになります。
(2)禁止される「競業」とは
まず、何を禁止するのかですが、これは当然「競業」になります。契約書上の表現としては、「本件店舗における事業と競合する事業」などと表記されることが多いと思いますが、これについては後述します。
(3)フランチャイズ契約終了後の競業禁止の期間
フランチャイズ契約終了後の競業避止義務については、どの程度の期間競業を禁止すべきか、ということも問題になります。これも、フランチャイザーの側からすれば、競業行為によって生じる不利益を回避するのに必要十分な期間ということになります。具体的に何年間がこれに該当するのかは業態ごとに異なるため難しいものと思いますが、通常は1年~3年とする例が多いようです(もちろんこれでなければならないということはありません)。なお、期間の設定の仕方についても後述します。
平成24年度下請取引改善講習会のご案内
下記の日程で、下請取引改善講習会((財)全国中小企業取引振興協会主催)の講師を担当いたします。
受講料・テキスト代ともに無料ですので、下請法に関心のある方は、是非ご参加いただければと思います。
詳しくは、主催者のホームページ(http://zenkyo.or.jp/seminar/course.htm)をご覧下さい。
記
1 平成24年6月18日(月)愛知県名古屋市(愛知県産業労働センター)
2 平成24年7月6日(金)東京都千代田区(日本教育会館)
3 平成24年8月6日(月)東京都江東区(東京ファッションタウンTFT)
※時間は、1が13:30~16:30、2及び3が9:30~16:30となります。
平成24年度下請取引適正化推進セミナー(基礎コース)のご案内
下記の日程で、下請取引適正化推進セミナー(財団法人全国中小企業取引振興協会主催)の講師をいたします。
いずれも下請代金支払遅延等防止法の初心者向けの解説で、有料(1名1会場12,000円)となります。
申込方法など詳しくは主催者ホームページ(http://zenkyo.or.jp/seminar/yuryo.htm)をご覧下さい。
記
1.平成24年5月22日(火)東京都江東区(東京ファッションタウンTFT)
2.平成24年6月6日(水)東京都江東区(東京ファッションタウンTFT)
※時間はいずれも13:00~16:30です。
FC法務研究会のお知らせ
平成24年5月16日午後2時から、株式会社アクアネット(http://aqnet.co.jp/)主催のFC法務研究会で講師を務めます。
競業避止義務など、本部のノウハウの保護についてお話しさせていただく予定です。
有料のセミナーになりますが、関心のある方は是非ご参加下さい。
下請法と優越的地位の濫用について②
下請法違反の行為が優越的地位の濫用にもなるかどうかについてまず検討すべきは、下請法上の親事業者は、直ちに下請事業者に対して優越的な地位にあるといえるかどうか、ということになります。
親事業者と下請事業者は、①両者の資本金の額、及び②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)によって、形式的に決まることになる一方、「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ない場合」と、実質的に判断されるで、判断の枠組みが大きく異なります。
もちろん両者は重なる部分も多いと思いますが、重ならない場合も十分あり得ると考えられますので、親事業者が優越的な地位にはない場合には、勧告に従わなくとも、独占禁止法の違反として排除措置命令の対象とはならないことになります(そのような場合に勧告に従わないことを勧めるわけではありません、念のため)。
親事業者が優越的な地位にあるとした場合、今度は任意に代金の減額に同意したことをどのように評価するのかが問題になります(優越的な地位にある者からの要請なので同意してもそれが任意にしたとはいえないのではないか、という問題はありますが、ここでは任意に行われたとします)。
当事者の合意については、優越的地位の濫用ガイドラインにも個別に規定した個所がありますが、代金の減額に関する個所については触れられておりませんので、おそらく、任意であっても合意したというだけでは、優越的地位の濫用の代金の減額に該当することになる(該当する場合がある)と考えているものと思われます。
しかしながら、競争政策は効率性の問題であり、任意に事業者が判断したとすれば、それは尊重されるべきであって、法が公平性の観点から後見的に介入する必要はないと思います。
従って、任意に同意したことに対して、優越的地位の濫用を問題にするべきではないでしょう。
このように考えると、下請法と独占禁止法とで結論が異なることになりますが、法律が異なるので、結論が異なること自体は問題はないと思います。
ただ、これでは、勧告に従わずに済ます親事業者が出てくることになり、取り締まる側からすれば困ることになるかも知れません。
前述のとおり、おそらく公正取引委員会は、任意に合意したとしても、それだけで優越的地位の濫用に該当しないという扱いはしないという立場だと思います。これはこれで一貫しており、結論が異なるという結果も回避できるのでいいのかも知れません。
しかしながら、このような公平性を重んじるやり方が行き過ぎると、取引への過度の介入になり、結果的に効率性が損なわれることになるといわざるを得ないでしょう。
判断の分かれるところだと思いますが、私見では、任意に合意した場合、下請法も優越的地位の濫用もともに問題にしない、とすべきではないかと考えます。




