消費税の転嫁対策に関する特別措置法案の公表③
3.事業者がしてはならない行為
平成26年4月1日以降、事業者(特定事業者ではありません)は、自己の供給する商品または役務の取引について、以下の表示をしてはならないとされています。
①取引の相手方に消費税を転嫁しないとの表示
②取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部または一部を対価から減ずるとの表示であって消費税との関連を明示しているもの
③消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって、①②に掲げる表示に準じるものとして内閣府令で定められた表示
ご存じのとおり、今回の法律の中で、もっとも反対の多い部分となります。余りにも反対意見が強いので、法律案も見直され、②については当初のものに「消費税との関連を明示しているもの」という部分が追加されました。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm
詳細は夏頃に公表予定のガイドラインによることになりますので、ここでは、概要と問題点について触れたいと思います。
(1)相手に消費税を転嫁しない旨の表示(①)
事業者は、取引の相手方に消費税の転嫁をしていない旨の表示をしてはなりません。
例えば、
・当店では消費税をいただいておりません。
・消費税は当店で負担しております。
といった表示は、禁止されることになります。
(2)消費税額の全部または一部を減額するとの表示であって消費税との関連を明示しているもの(②)
事業者は、取引の相手方が負担すべき消費税の全部または一部を値引きするような表示をしてはなりません。
例えば、
・表示価格から消費税分の8%を値引きします。
といった表示をしてはならないことになります。
ただし、前述のとおり、「消費税との関連を明示していること」という要件が付加されたので、
・表示価格から8%値引きします。
という表現は認められることになりました。
(3)消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示
事業者は、対価そのものではなくても、消費税に関連して相手方に経済上の利益を提供するとする内容の表示をしてはなりません。
例えば、
・消費税の8%分ポイントアップ
といった表示は禁止されることになります。
具体的にどのような表示が禁止されるのかは、内閣府令で定めることになっているので、現時点では不明ですが、①及び②に準じるものとなっていることから、これについても消費税との明示的な関連性が要求されるとすると、単に「8%分ポイントアップ」とするだけでは、違反表示にならないかも知れません。
(4)問題点
前述のように、本条項は特にもっとも影響を受けると考えられる小売業界からの反発が強く、法案の修正を余儀なくされました。なぜ反発を招いたのかといえば、直接には業績への悪影響への懸念からだと思います。
消費税引き上げ後に予想される業績への悪影響、すなわち売上の減少に対処するため、小売業界の側とすれば、いわゆる消費税還元セールの類を実施し、売上の減少を抑制したいと考えていたところ(事実前回の引き上げ時には、これにかなり効果があったようです)、それらの販売促進や広告の表現が制約されることになるからです。
もちろん、こういった表現を制約するきちんとした理由があれば、制約を受けてもやむを得ないといえるのですが、これらの条項を導入しなければならない理由というものに、余り説得力がないということも、規制に対する反発の原因になっているようです。
反発を招いた規制の理由ですが、当初は、このような表示を認めると消費税の転嫁に悪影響があるから、とされておりました。すなわち、消費税を取らない、その分値下げするといった表示をした業者は、納入業者に消費税を支払わないことになるので、適切な転嫁を行うためには、これらの表示を禁止する必要があるというのです。対象は事業者ですが、特定事業者の禁止行為の予防的な規定と位置づけられているというわけです。
もっとも、これだけでは、全ての事業者を対象としているということを説明しづらいですし、特定事業者をしっかり監視すればよく、商売のやり方にまで口を出すのは行き過ぎではないかという、もっともな指摘を受けることになります。
そのような指摘に対する反論も難しいと考えたのか、その後は、消費税を納めなくてもよいかのような誤解を生む表現を避けることが理由であるとされたり、消費税の税収を上げるのに悪影響があるからということが理由とされたりしているようです。
どうやら、消費税還元セールの類を行うと、消費者が消費税は納めなくてもよいと誤解したり、消費税の税収が上がらなくなったりすると政府は考えているようですが、この理屈も裏付けるデータがないと、にわかに賛同しがたいといわざるを得ません。
消費税を転嫁するかは、基本的には相対当事者間の契約で決めるべき問題なので、自分からいらないというのも、基本的には自由のはずです。従ってそれを売り物にして商売をするというのも、当然自由であるべきだと思います。そういった点から見ても、本条項には疑問が残るといわざるを得ません。
なお、反対の声に配慮した、「消費税との関連を明示している」との修正ですが、詳しくはガイドラインを待つ必要があるものの、「消費税」という文言さえ使わなければ全ていいということにはならないとすると、その線引きは極めて難しいものにならざるを得ないと思います。
詳しくはガイドライン等を待ちたいと思います。
消費税の転嫁対策に関する特別措置法案の公表②
2.特定事業者がしてはならない行為
平成26年4月1日以降、特定事業者は、①減額、②買いたたき、③購入・利用強制、④税抜き価格による交渉拒否、⑤報復措置をしてはならないとされています。
(1)減額
特定事業者は、商品若しくは役務の対価を減額して、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒んではいけないとされています。
減額というのは、一旦決まった対価を減らすことなので、消費税率引き上げにより、価格を据え置くのではなく、さらに代金を削るという行為が対象になります。
一方、「消費税の転嫁」ですが、消費税法上、転嫁については規定がないので、用語の意味が問題になります。通常は本体価格に消費税分を上乗せして取引の相手方に支払ってもらうことを意味すると考えてよいでしょう。
この転嫁を拒むというのですから、典型的には、消費税率が上がったことを理由として、その分を対価から減じることになるでしょう。全額であれば当然ですが、消費税相当額全額ではなく、一部についてであっても減額することも含まれると考えられます。
消費税込みの価格であれば、それを減額した場合、結果としてそこに含まれる消費税額も、少なくとも一部は減ることになりますから、この減額に該当するということになるでしょう。
問題は、本体価格は減額するが、それに対する消費税額はきちんと8%支払うという行為が、この「転嫁を拒む」に該当するのかどうかです。
言葉の解釈からすれば、含まれないと考えることになるのでしょうが(後は、それが下請法や優越的地位の濫用に違反するかどうかが問題になるかどうかです)、それでよいのかは検討の余地がありそうです。
夏頃までにガイドラインが作成されるようなので、この点についても、そこで明らかになるでしょう。
なお、下請法同様、相手方が同意しても、消費税の転嫁を拒むための減額は違法になるという運用になると思います。
(2)買いたたき
特定事業者は、商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒んではいけないとされています。
これは、対価を決めるに当たって、通常支払われる対価に比べて低い価格を設定し、消費税の転嫁を拒むことを禁止する規定です。
既に適正に定められた価格であっても、消費税率引き上げ後、それを見直して、消費税を適正に転嫁するようにしないと、場合によってはこの買いたたきに該当することになります。
下請法に同様の規定がありますが、下請法は、「著しく低い下請代金」を「不当に定める」と違法となります。
一方こちらの方は、「著しい」という部分と「不当に定める」という部分が削られています。従って、代金を決めるに当たって通常支払われる価格に比べて安い価格にすることにより、消費税の転嫁を拒むと直ちに違法ということになるでしょう。
問題は、どのように対価を決めたら「消費税の転嫁を拒んだ」ことになるのか、です。
減額と違い、対価を決める行為ですから、税込で対価を決めた場合、そのうちの8%が消費税分だとすれば、転嫁を拒んだと認定することは困難ではないかと思います。
一方、税抜きで対価を決めた場合、それに対する8%未満の額しか加えないような価格設定をすれば、当然この買いたたきになると思います。
ただ、同じ価格でも、本体価格を低めに設定し、それに対する消費税額として8%を加えるようにすれば、減額の場合同様、消費税の転嫁を拒んだとはいえないと考えられます。
「通常支払われる対価」という要件は、下請法の場合と同様、余り機能しないと考えられるため、やり方次第で同じ金額でも結論が異なるということになりそうですが、これは、よろしくないように思います。
これも、ガイドラインがどのように処理するのかを待ちたいところです。
(3)購入・利用強制
特定事業者が、特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに、自己の指定する商品を購入させ、若しくは自己の指定する役務を利用させるとこれに該当します。
あくまで消費税の転嫁に応じることと引換えですから、消費税の転嫁と無関係に購入・利用を強制する場合は含まれないことになります(もちろん下請法などの問題は残りますが)。
一方で、消費税の転嫁に応じることと引換えにして購入・利用を強制すればいいのであって、実際に転嫁に応じたかどうかは無関係になると思います(結果として応じなかった場合には、減額、買いたたきなど、別の問題が生じます)。
(4)不当な経済上の利益提供要請
特定事業者は、特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに、又は自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させてはいけないとされています。
これも消費税の転嫁に応じることと引換えとなっているため、消費税の転嫁と無関係に経済上の利益の提供を要請することは、この禁止行為とは無関係になります。
(5)税抜き価格交渉の拒否
特定事業者は、商品又は役務の供給の対価に係る交渉において、特定供給事業者から消費税を含まない価格を用いたいとの申出があった場合、それを拒んではならないとされています。
これは、消費税を含まないものとして価格について協議し、最後に消費税額を加えれば、きちんと転嫁されたか否かがはっきり分かるため、消費税の適正な転化を促進するためには有効であるとして設けられた規定だと考えられます。
消費税法63条は、これとは逆に小売業者は税込の価格表示をしなければならないとしておりますから混乱しますが、消費税法の規定は消費者に対して実際の買値をきちんと示すという趣旨であり、こちらは消費税を適正に転嫁するための規定なので、特に矛盾しているわけではありません。
ただ、前述のように、消費税を含まない価格を用い、転嫁自体はきちんと行っていたとしても、肝心の価格が適正かどうかは少なくともこの法律の問題ではないので、これで大丈夫というわけにはいかないように思います。
(6)報復行為
特定事業者は、特定供給事業者が(1)から(5)までに掲げる行為があるとして公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官に対し、その事実を知らせたことを理由に、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをしてはならないことになっています。
このような規定がないと、報復行為をおそれた特定供給事業者が泣き寝入りになってしまうため、設けられた規定です。
消費税の転嫁対策に関する特別措置法案の公表①
平成25年3月22日、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」(消費税の転嫁対策に関する特別措置法案)が閣議決定され、公表されました
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h25/mar/130322.html。
同法案は、以下の4つの特別措置を主な内容とするものです。
1 消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置
2 消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置
3 価格の表示に関する特別措置
4 消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置
上記の特別措置については、特に2を中心に小売業界の反発の声が強く、はたして法案どおり実施できるかどうか予断を許さないところで、注目もこの部分に集中しているようです。
ただ、本稿では、そこのみにとらわれず、全体の内容を冷静に検討してみたいと思います。
1.当事者
この法律に登場するのは、「特定事業者」「特定供給事業者」「中小事業者」です。
(1)特定事業者
まず特定事業者は、以下のいずれかです。
① 大規模小売事業者
② 特定供給事業者から継続して商品または役務の供給を受ける大規模小売事業者以外の法人事業者
①の大規模小売事業者は、公正取引委員会規則で定めることになっているので、現段階では正確に分かりませんが、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」によれば、「大規模小売業者」とは、コンビニなど、フランチャイズ・システムによる場合を含む小売業者で、以下のいずれかに該当する者をいうとされているので、参考になると思います。
a 前年度の売上(加盟者の売上を含む)が100億円以上である者
b 床面積が1500平方メートル以上(東京23区及び政令指定都市にあっては3000平方メートル以上)の店舗を有する者
②は、大規模小売事業者ではないものの、特定供給事業者(資本金3億円以下の事業者(個人も含みます))から継続して商品または役務の供給を受ける法人事業者が該当することになります。
(2)特定供給事業者
特定供給事業者は、以下のいずれかの法人事業者です。
① 大規模小売事業者に継続して商品または役務を供給する事業者
② 大規模小売事業者以外の特定事業者に継続して商品または役務を供給する資本金3億円以下の事業者(個人を含む)
(3)中小事業者
中小事業者は、以下のいずれかになります。
① 主として製造業、建設業、運輸業などの事業(卸売業、サービス業、小売業は除く)を営む資本金3億円以下の会社とこれらを営む従業員数300人以下の会社と個人
② 主として卸売業を営む資本金1億円以下の会社とこれらを営む従業員数100人以下の会社と個人
③ 主としてサービス業を営む資本金5000万円以下の会社とこれらを営む従業員数100人以下の会社と個人
④ 主として小売業を営む資本金5000万円以下の会社とこれらを営む従業員数50人以下の会社と個人
⑤ その他政令で定める会社と個人
平成25年度下請取引適正化推進セミナー(基礎コース)のご案内
下記の日程で、下請取引適正化推進セミナー(公益財団法人全国中小企業取引振興協会主催)の講師を担当いたします。
本セミナーは、下請法の初心者の方々を対象としたものになります。
受講料は12,000円(テキスト代・消費税込み)です。
下請法の基礎的な内容を学びたい方は、是非ご参加いただければと思います。
詳しくは、主催者のホームページ(http://zenkyo.or.jp/seminar/orijinal_jitumu.htm)をご覧下さい。
記
開催日:平成25年5月8日(水)
開催場所:東京都江東区有明3-6-1 TFTビル東館9階
時間:13:30~17:00
アマゾン価格と不当廉売
今や売上からみると日本最大の書店となったといわれるアマゾン・ジャパンですが、同社は書籍だけでなく、電化製品、日用品などの他、衣料や靴などのファッション用品まで取扱対象を広げ、流通業界における一大勢力となっています。
そのアマゾンですが、昨年末頃、相次いでビジネス誌で特集が組まれました(週刊東洋経済12月1日号、週刊ダイヤモンド12月15日号等)。切り口は色々ありましたが、各誌とも共通していたのは、家電製品を取り扱うことになったアマゾンに対し、日本の家電量販店各社が非常に大きな脅威を感じているということです。
驚いたのは、日経ビジネス11月19日号によると、アマゾンは仕入れ値を下回る価格をサイト上で消費者に提示しているおそれがあるということです(同誌ではこれを「アマゾン価格」と命名しております)。
事の真偽はここでは問いませんが、気になるのは、このような行為が独占禁止法の不当廉売に該当しないのかということです。
不当廉売とは、
① 正当な理由がないのに、商品または役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給すること
又は
② ①に該当しなくても、不当に商品または役務を低い対価で供給すること
によって、
③ 他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合
のことです。
この「供給に要する費用」とは、公正取引委員会の考えでは「総販売原価」(仕入原価に販売費と一般管理費を足したもの)なので、そもそも仕入れ値を下回る価格は、この「供給に要する費用を著しく下回る価格」といえそうです。
現に、前述の日経ビジネスの記事にも、「継続的に仕入れ値を下回って販売するのは不当廉売の対象になり得る」という公正取引委員会の取引企画課長の談話が引用されています。
ただ、この方は、それに続いて、「ネットの場合、低価格販売が他の事業者にどれほどの影響を与えたかを算定しづらいため、公正な取引を阻害しているといいにくい」ともコメントしており、どうやら上記の③の認定が困難であると考えているようです。
公正取引委員会のこのような考え方は、やはり昨年12月10日に出された株式会社ヤマダ電機による株式会社ベスト電器の株式取得計画に関する審査結果にも見て取れます。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.december/12121002.pdf
これによると、アマゾンのようなインターネット販売を中心とする通販事業者と家電量販店との競争関係については、以下のように否定的です。
「インターネット販売を中心とした通販事業者による販売が家電製品の販売の一定割合を占めており、更に近年増加傾向にあることは認められるが、①ヤマダ電機から提出された資料によれば、自社の店舗に来店した顧客のうち通販事業者を買い回り先としている顧客は少数にとどまること、②家電量販店に対するヒアリング調査の結果によると、家電量販店と通販事業者は、ほぼすみ分けられており、通販事業者が緩やかな競争圧力となり得ても、強い競争圧力にはなっていないという意見が多くみられたこと、③通販事業者に対するヒアリング調査によると、家電量販店と通販事業者は価格面で全面的な競争関係にはないとしていること、④多くの通販事業者は、家電量販店と同等のアフターサービスや品ぞろえを提供しているわけではないこと等から判断すると、インターネット販売を中心とした通販事業者は、家電量販店に対し、ある程度の競争圧力となっている点は否定できないが、強い競争圧力になっているとまではいえないものと認められる。」
これは、住んでいる地域や念頭に置いている家電量販店によって異なるのかも知れませんが、ネットの価格を参考にしながら家電量販店で購入するかどうかを決めることは、私自身時々やっていることなので、個人的には余り納得がいきません。
また対アマゾンの急先鋒(?)のヨドバシカメラは、わざわざスマートフォン用のアプリを開発し、店頭でバーコードを読み取ると、アマゾンでの売値が分かるということまでしておりますが、公正取引委員会の立場からすると、余り意味のないことをしていることになるのでしょうか(私はそうは思いませんが・・・)。
なお、この件はアマゾンと家電量販店の問題にされておりますが、家電量販店(特に大手)は小売業として巨大な存在であり、特段保護が必要な存在とは考えられません。むしろ、アマゾン価格の他のネット通販事業者への影響の方がより問題ではないかと思います。
ただ、ネット通販事業は参入が容易と考えられ、他の価格戦略に対して柔軟に対応しうることから、少なくとも私が知る限りでは、他のネット通販事業者とアマゾンとが対立関係にあるという話は聞いたことがありません。むしろ、アマゾンに積極的に出店したりして、うまく共存できているのではないかと思います(アマゾンへの出店は一部家電量販店でさえ行っているので、事情は一層複雑です)。
これは、上記の要件でいえば、やはり③の「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」の問題になると思います。ガイドラインによれば、これは「他の事業者の実際の状況のほか、廉売行為者の事業の規模及び態様、廉売対象商品の数量、廉売期間、広告宣伝の状況、廉売対象商品の特性、廉売行為者の意図・目的等を総合的に考慮して、個別具体的に判断される」ことになりますが、
・ネット通販事業者の中でアマゾンが最も安いというわけではないこと。
・家電量販店との表示価格の比較でも、アマゾンの方が安いものはそれほど多くないこと。
・売れ筋などの特定の商品だけ、一定期間仕入れ値を下回って販売するような場合も考えられること。
・家電メーカーの側でも、ネット向けの製品を製造したり、ネット用の型番を設けたりして、ほぼ同じ商品でも、違うもののようにしていること。
などの事情によれば、この要件を認めるのはやはり困難ではないかと思います。
そもそも、不当廉売はなぜいけないのでしょうか?
不当廉売ガイドラインによると、「企業の効率性によって達成した低価格で商品を提供するのではなく、採算を度外視した低価格によって顧客を獲得しようとするのは、独占禁止法の目的からみて問題がある場合があり、そのような場合には、規制の必要がある。正当な理由がないのにコストを下回る価格、いいかえれば他の商品の供給による利益その他の資金を投入するのでなければ供給を継続することができないような低価格を設定することによって競争者の顧客を獲得することは、企業努力又は正常な競争過程を反映せず、廉売を行っている事業者自らと同等又はそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあり、公正な競争秩序に影響を及ぼすおそれがある場合もあるからである。」ということなのですが、これによれば、「企業の効率性によって達成した低価格」はいいが、「採算を度外視した低価格」は駄目、ということになるようです。
しかし、ここには、余り、企業の長期的な戦略やマーケティングの視点が感じられません。廉売をすることによって将来の需要増が見込めるのであれば、一定の場合に廉売を合理的としてもよいと思います。例えば、ある商品の品質を宣伝するための手段として廉売を行う場合と特定商品のユーザーが多いほどその商品の利便性が高まる場合などです。
アマゾンの場合は、前者の一類型とは考えられないでしょうか。全くの推測ですが、書店としてのイメージが強いアマゾンが取扱商品を拡大していることの宣伝の一環として「アマゾン価格」なるものを設定しているのではないかと思います。同社が送料を基本的に無料とするサービスを提供したのも、同じような理由ではないかと考えられます。
とすると、こうやってアマゾンの価格設定がマスコミで取り上げられること自体、同社の思うツボということになるのでしょうか。
拙文も同じくツボにはまったようですが・・・