下請法と優越的地位の濫用について①
年度末の3月27日から30日にかけて、公正取引委員会は立て続けに3件、下請法違反による勧告を行いました。
いずれも下請代金の減額の禁止に違反したもので、内容的にはよくあるものですが(勧告の対象はほとんどすべてが下請代金の減額の禁止違反です)、いずれの親事業者も、下請事業者に対して下請代金の減額を要請し、それを了承した下請事業者に対して、下請代金の減額を行ったというものです。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.march/12032702.pdf
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.march/120328.pdf
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.march/120330.pdf
下請事業者の了解があっても、親事業者が禁止事項に該当する行為を行えば下請法の違反であるというのが公正取引委員会の立場なので、これはある意味当然なのですが、敢えて「了承した下請事業者」としているところからすると、了承しなかった下請事業者に対しては減額を行わなかったようです(もっとも、これら以外の減額の事案についても、ほとんどこのような表現が用いられていることから、単なる定型的な表現であって、余り深い意味はないかも知れませんが)。
とすると、了承するか否かの判断を下請事業者に委ね、了承しなかった下請事業者に対しても特段の不利益等が与えられていなければ、減額を了承した下請事業者は、任意に了承したものと考えられます。
ということは、公正取引委員会は、仮に下請事業者が全くの任意で減額に応じたとしても、下請法違反になると考えていることになります。このことは、公正取引委員会と中小企業庁の作成した下請法のテキストの以下のような記述からも分かります。
Q58: 下請事業者から当月納入分を翌月納入分として扱って欲しいと頼まれ、下請代金も翌月納入されたものとみなして支払ったところ、支払遅延であるとの指摘を受けたが問題となるか。
A: 本法の適用については、下請事業者との合意は問題とならない。下請事業者との合意の有無に関係なく、下請代金は受領した日から起算して60日以内に定めた支払期日までに支払わなければならない。
ところで、勧告に従わないとどうなるのでしょうか。下請法8条では、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第20条(排除措置)及び第26条の6(優越的地位の濫用に係る課徴金)の規定は、公正取引委員会が前条第1項から第3項までの規定による勧告をした場合において、親事業者がその勧告に従ったときに限り、親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」となっていますから、勧告に従わない場合、勧告の対象となった行為について、独占禁止法上の優越的地位の濫用の禁止にも該当するのであれば、排除措置命令が出され、場合によっては課徴金が課されることになるということになります(寡聞にして、そのような勇猛果敢な親事業者の事例を知りませんが・・・)。
下請代金減額の場合、優越的地位の濫用でいうと、独占禁止法2条9項5号ハが対応することになります。
ここまではいいとして、では、下請事業者が任意に応じた下請代金の減額が下請法に違反するとしても、優越的地位の濫用にも該当することになるのでしょうか。
これを次回に検討してみたいと思います。