消費税の転嫁対策に関する特別措置法案の公表②

2013-05-16

2.特定事業者がしてはならない行為

平成26年4月1日以降、特定事業者は、①減額、②買いたたき、③購入・利用強制、④税抜き価格による交渉拒否、⑤報復措置をしてはならないとされています。

(1)減額

特定事業者は、商品若しくは役務の対価を減額して、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒んではいけないとされています。

減額というのは、一旦決まった対価を減らすことなので、消費税率引き上げにより、価格を据え置くのではなく、さらに代金を削るという行為が対象になります。

一方、「消費税の転嫁」ですが、消費税法上、転嫁については規定がないので、用語の意味が問題になります。通常は本体価格に消費税分を上乗せして取引の相手方に支払ってもらうことを意味すると考えてよいでしょう。

この転嫁を拒むというのですから、典型的には、消費税率が上がったことを理由として、その分を対価から減じることになるでしょう。全額であれば当然ですが、消費税相当額全額ではなく、一部についてであっても減額することも含まれると考えられます。

消費税込みの価格であれば、それを減額した場合、結果としてそこに含まれる消費税額も、少なくとも一部は減ることになりますから、この減額に該当するということになるでしょう。

問題は、本体価格は減額するが、それに対する消費税額はきちんと8%支払うという行為が、この「転嫁を拒む」に該当するのかどうかです。

言葉の解釈からすれば、含まれないと考えることになるのでしょうが(後は、それが下請法や優越的地位の濫用に違反するかどうかが問題になるかどうかです)、それでよいのかは検討の余地がありそうです。

夏頃までにガイドラインが作成されるようなので、この点についても、そこで明らかになるでしょう。

なお、下請法同様、相手方が同意しても、消費税の転嫁を拒むための減額は違法になるという運用になると思います。

(2)買いたたき

特定事業者は、商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒んではいけないとされています。

これは、対価を決めるに当たって、通常支払われる対価に比べて低い価格を設定し、消費税の転嫁を拒むことを禁止する規定です。

既に適正に定められた価格であっても、消費税率引き上げ後、それを見直して、消費税を適正に転嫁するようにしないと、場合によってはこの買いたたきに該当することになります。

下請法に同様の規定がありますが、下請法は、「著しく低い下請代金」を「不当に定める」と違法となります。

一方こちらの方は、「著しい」という部分と「不当に定める」という部分が削られています。従って、代金を決めるに当たって通常支払われる価格に比べて安い価格にすることにより、消費税の転嫁を拒むと直ちに違法ということになるでしょう。

問題は、どのように対価を決めたら「消費税の転嫁を拒んだ」ことになるのか、です。

減額と違い、対価を決める行為ですから、税込で対価を決めた場合、そのうちの8%が消費税分だとすれば、転嫁を拒んだと認定することは困難ではないかと思います。

一方、税抜きで対価を決めた場合、それに対する8%未満の額しか加えないような価格設定をすれば、当然この買いたたきになると思います。

ただ、同じ価格でも、本体価格を低めに設定し、それに対する消費税額として8%を加えるようにすれば、減額の場合同様、消費税の転嫁を拒んだとはいえないと考えられます。

「通常支払われる対価」という要件は、下請法の場合と同様、余り機能しないと考えられるため、やり方次第で同じ金額でも結論が異なるということになりそうですが、これは、よろしくないように思います。

これも、ガイドラインがどのように処理するのかを待ちたいところです。

(3)購入・利用強制

特定事業者が、特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに、自己の指定する商品を購入させ、若しくは自己の指定する役務を利用させるとこれに該当します。

あくまで消費税の転嫁に応じることと引換えですから、消費税の転嫁と無関係に購入・利用を強制する場合は含まれないことになります(もちろん下請法などの問題は残りますが)。

一方で、消費税の転嫁に応じることと引換えにして購入・利用を強制すればいいのであって、実際に転嫁に応じたかどうかは無関係になると思います(結果として応じなかった場合には、減額、買いたたきなど、別の問題が生じます)。

(4)不当な経済上の利益提供要請

特定事業者は、特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに、又は自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させてはいけないとされています。

これも消費税の転嫁に応じることと引換えとなっているため、消費税の転嫁と無関係に経済上の利益の提供を要請することは、この禁止行為とは無関係になります。

(5)税抜き価格交渉の拒否

特定事業者は、商品又は役務の供給の対価に係る交渉において、特定供給事業者から消費税を含まない価格を用いたいとの申出があった場合、それを拒んではならないとされています。

これは、消費税を含まないものとして価格について協議し、最後に消費税額を加えれば、きちんと転嫁されたか否かがはっきり分かるため、消費税の適正な転化を促進するためには有効であるとして設けられた規定だと考えられます。

消費税法63条は、これとは逆に小売業者は税込の価格表示をしなければならないとしておりますから混乱しますが、消費税法の規定は消費者に対して実際の買値をきちんと示すという趣旨であり、こちらは消費税を適正に転嫁するための規定なので、特に矛盾しているわけではありません。

ただ、前述のように、消費税を含まない価格を用い、転嫁自体はきちんと行っていたとしても、肝心の価格が適正かどうかは少なくともこの法律の問題ではないので、これで大丈夫というわけにはいかないように思います。

(6)報復行為

特定事業者は、特定供給事業者が(1)から(5)までに掲げる行為があるとして公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官に対し、その事実を知らせたことを理由に、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをしてはならないことになっています。

このような規定がないと、報復行為をおそれた特定供給事業者が泣き寝入りになってしまうため、設けられた規定です。