2014.2月 の一覧
親事業者の遵守事項⑤~不当な給付内容の変更及びやり直しの禁止
親事業者は、下請事業者に責任がないのに、給付内容を変更したり、下請事業者の給付を受領した後に、給付をやり直させたりして、下請事業者の利益を不当に害してはならないとされています。
これは、「不当な給付内容の変更及びやり直し」といわれる違反行為です。
この規定には、「給付内容の変更」と「やり直し」という二つの行為が含まれておりますが、両者の違いは、給付を受領する前か後かということになります。
すなわち、「給付の受領前に、3条書面に記載されている委託内容を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせること」が「給付内容の変更」で、「給付の受領後に、給付に関して追加的な作業を行わせること」が「やり直し」になります。
この違反行為のポイントは
①「給付内容の変更」「やり直し」とは何か?
②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?
また、4条2項の禁止事項なので、
③「下請事業者の利益を不当に害する」とはどういうことか?
ということも検討する必要があります。
また、「やり直し」については、受領後の行為ですので、「返品」同様
④「やり直し」させることのできる期間
も問題になります。
①については、既に述べたとおりですが、完成前に発注を取り消す行為なども「給付内容の変更」に該当することになります。
②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。
ア 下請事業者の要請により給付の内容を変更する場合
イ 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)
ウ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)
イとウについては、給付の受領前と受領後のどちらについても考えられます。
アは、親事業者からではなく、下請事業者の方から、「このように変更したい」というような申し出があり、親事業者が了承することによって変更される場合になります(性質上、このような「やり直し」はないと思われます)。親事業者から無償での変更の申し出があり、それを下請事業者が了解した場合であっても下請法の違反になるという公正取引委員会の考え方からすると、なぜ突然アがここに含まれるのか、若干違和感があります。むしろこのような場合、下請事業者からすれば、より負担が少なくなるから要請を行っていると考えられますから、次の③の要件の問題とすればよいのではないかと思います。
③の要件ですが、これについては、「給付内容の変更」又は「やり直し」をさせると、下請事業者にどのような不利益があるのか、それを補うにはどうすればよいのかという観点から考えると分かりよいと思います。すなわち、下請事業者は、これらの作業によって、追加費用の支出を強いられますが、それさえ親事業者が負担してくれれば、下請事業者は利益を害されないということになります(と公正取引委員会は考えているようです)。なので、この増加費用さえ親事業者が負担すれば、下請事業者の利益を不当に害していないということになるのです。
実務上は、給付内容の変更・やり直しに際し、まず、下請事業者に増加費用を確認することになるでしょう。下請事業者の側からは、一定の金額が提示されることになるでしょうが、下請事業者の言い値を支払わなければならないということはなく、本当に増加費用といえるのかという点について、お互い協議して判定するということも当然認められると思います。
下請事業者が、増加費用なしと回答してきた場合には、親事業者は何ら負担しなくても、下請事業者の利益を不当に害したことにはならないでしょう。
最後の④については、隠れた瑕疵があった場合の問題ですが、返品できる期間が原則6か月であったのに対し、「やり直し」の場合は、原則1年間とされています。
もっとも、親事業者が取引先に対して、1年を超える瑕疵担保期間を定めている場合に親事業者と下請事業者との間でそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合には、その期間内であれば1年を超えてやり直しをさせてもよいことになっています。返品のような上限がないので、理論上は、親事業者の定める瑕疵担保期間の範囲内であれば、3年でも5年でもやり直しをさせてもよいことになります。もっとも、当然のことですが、当該瑕疵が下請事業者の責任で生じたといえることは必要となります。
なお、「返品」と「やり直し」の期間の上限に関するテキストの文言には、若干の違いがあります。
既に見ましたが、「返品」の場合は、「一般消費者に対して6か月を超えて品質保証期間を定めている場合には、その保証期間に応じて最長1年以内であれば親事業者は下請事業者に返品することができる。」と規定されています。
一方「やり直し」の場合は、「親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に、親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合は除く」(1年を超えてやり直しをさせてもよい)となっています。
一番の違いは、返品については、親事業者と下請事業者の間であらかじめ返品について定めることが(少なくとも記載上は)求められていないということです。返品については、やり直しより厳格に考えられるはずなのに、なぜこのような違いを設けたのか不明で、常々不思議に思っているのですが、返品に関しても下請事業者とあらかじめ合意しておくに越したことはないと思います。
親事業者の遵守事項④~返品
親事業者は、下請事業者に責任がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付物を引き取らせてはならないとされています。
これは、「返品」といわれる違反行為です。
この違反行為のポイントは
①「返品」とは何か?
②「下請事業者に責任がある」とはどういうことか?
ですが、条文には明記されていないものの、運用上追加されている条件として、
③「返品」できる条件~受入検査の有無
④「返品」できる期間
も覚えておかなければならないでしょう。
①の「返品」ですが、これは、親事業者が一旦受領したものを、下請事業者に返すことです。一旦受け取った後返すので、「受領拒否」とは異なります。また、返して再度受け取らない点が、「やり直し」とも異なることになります。返品も有体物が前提となっているので、役務提供委託には適用されません。
②の下請事業者に責任がある場合ですが、これについては、以下の場合に限り、認められることになります。
ア 下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合(注文違い)
イ 下請事業者の給付に瑕疵のある場合(瑕疵)
受領拒否と異なり、納期遅れを理由とする返品は認められません。
また、返品が認められる前提として、親事業者は、受入検査を行っている必要があります(③)。これを怠ると、いかなる理由があっても、「返品」は認められないことになりますから、注意が必要です。
④については、隠れた瑕疵があった場合の問題ですが、返品できる期間は、原則6か月(かつ、瑕疵に気づいたら速やかに返品する)となります。
もっとも、親事業者が一般消費者に対して、6か月を超える保証期間を定めている場合には、その期間内であって、かつ、最長1年までは返品してもよいことになっています。
この「保証期間」ですが、これについてはユーザーの手に渡ってから壊れたような場合も対象になるのが通常「ユーザー保証期間」といわれているものだと思いますが、もちろん、返品が認められるのは、下請事業者による瑕疵の場合に限られます。また、このような場合、通常は良品と取り替えるなど、「やり直し」で処理されるでしょうから、余り、この返品の例外が認められることはないように思います。