2013.6月 の一覧
消費税の転嫁対策に関する特別措置法案の公表⑤
6.手続き等
(1)特定事業者の禁止行為(第3条)について
① 指導または助言
公正取引委員会、主務大臣または中小企業庁長官は、特定事業者に対し、第3条に違反する行為を防止し、または是正するために必要な指導または助言をするものとされています。
② 措置請求
主務大臣または中小企業庁長官は、第3条に違反する行為があると認めるときは、公正取引委員会に対し、適当な措置をとるよう求めることができるものとされています。
なお、以下の場合は、この措置請求が義務的となります。
ア 多数の特定供給事業者に対して行われていると認められるとき
イ 特定供給事業者の受ける不利益の程度が大きいと認められるとき
ウ 違反行為を繰り返し行う蓋然性が高いと認められるとき
エ ア~ウの他、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する重大な事実があると認められるとき
③ 勧告及び公表
第3条に違反する行為を行った特定事業者に対し、公正取引委員会は、速やかに消費税の適正な転嫁に応じることその他必要な措置をとるよう勧告するものとされています。勧告をした場合、公正取引委員会は、それを公表することになります。
勧告については、守らなくても罰則があるわけではなく、従って強制力はありませんが、勧告に従った特定事業者については、独占禁止法の排除措置命令と課徴金納付命令を課さないとすることで、勧告に従うよう促すという構成になっています。
つまり、勧告に従わないと、第3条に違反する行為のうち、独占禁止法の優越的地位の濫用に該当するものについては、そちらに違反する行為として、独占禁止法の手続きが適用されることになるのです。
もっとも、第3条に違反する行為と優越的地位の濫用に該当する行為は、両者の要件が異なる以上、完全に重なるものではありません。第3条に違反する行為であっても、優越的地位の濫用に該当しない行為については、勧告に従わなかった時点でそれ以上の手続きは取り得ないことになります(もちろんそのようなことをお勧めはいたしませんが)。
(2)事業者の禁止行為(第8条)について
これについては、第9条で、第3条に関する手続き(第4条~第7条)が準用されています。
第9条だけだとわかりにくいので、条文を直してみますと、以下のようになります。
(指導又は助言)
第4´条 内閣総理大臣、公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官は、事業者に対し、第8条の規定に違反する行為を防止し、又は是正するために必要な指導又は助言をするものとする。
(公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官の請求)
第5´条 公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官は、第8条の規定に違反する行為があると認めるときは、内閣総理大臣に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができる。ただし、第3号及び第4号に掲げるときは、当該求めをするものとする。
① 当該行為が多数の特定供給事業者に対して行われていると認められるとき。
② 当該行為によって特定供給事業者が受ける不利益の程度が大きいと認められるとき。
③ 当該行為を行った事業者が第8条の規定に違反する行為を繰り返し行う蓋然性が高いと認められるとき。
④ 前号に掲げるもののほか、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する重大な事実があると認められるとき。
(勧告及び公表)
第6´条 内閣総理大臣は、事業者について第8条の規定に違反する行為があると認めるときは、その特定事業者に対し、速やかにその行為を取りやめることその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告をしたときは、その旨を公表するものとする。
(勧告に係る違反行為についての不当景品類及び不当表示防止法の適用除外)
第7´条 不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号。)第6条の規定は、内閣総理大臣が前条第1項の規定による勧告をした場合において、事業者がその勧告に従ったときに限り、事業者のその勧告に係る第8条の規定に違反する行為については、適用しない。
上記の第7´条によれば、事業者の禁止行為についても、内閣総理大臣による勧告に従わない場合に限り、景品表示法第6条の措置命令の対象となるということになります。
問題は、措置命令が、そもそも第8条の禁止行為に適用できる場合があるのか、ということです。
第8条の禁止行為は、それが事実であれば、不当表示とは考えられません。消費者が消費税を負担しなくて済むかのような誤認をするということはあるのかも知れませんが(個人的にはないと思いますが)、それが「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示」や「実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」になることは通常考えられないからです。
とすると、第8条の禁止行為については、措置命令の対象にはならないと考えられるため、第3条の禁止行為以上に強制的に取り締まることが困難なものになりそうです。そもそもこれらの行為は、既述のとおり、なぜ取り締まる必要があるのかという根本のところがはっきりしないものであり、取り締まられる側の反発が強いものであることから、仮に違反行為を行っても、確信犯的に勧告に従わない事業者がでることも考えられるところです。
さて、どうなるのでしょうか・・・
消費税の転嫁対策に関する特別措置法案の公表④
※ 平成25年6月5日、消費税の転嫁対策に関する特別措置法が成立いたしました。若干間抜けになってしまいましたが、とりあえず続けます・・・
4.総額表示義務に関する消費税法の特例
消費税の納税義務のある事業者が消費者に対して、価格を表示する場合には、物やサービスの価格に消費税額を加えた価格を表示しなければならないとされています(消費税法63条)。
これに対し、今回の法律では、表示価格が税込価格であると誤認されないような措置を講じていれば、税抜価格を表示してもよいとされました。
これは、今回の消費税率の引き上げが2段階となることから、該当する事業者に総額表示の義務を負わせるのが酷であると考えられたためです。
もっとも、本則は総額表示なので、税込価格を表記しない事業者は、できる限り速やかに税込価格を表示するよう努めなければならないとされています。
なお、税込価格を表示する場合に、消費税の円滑かつ適正な転嫁のために必要があるときは、税込価格に併せて税抜価格または消費税の額を表示するものとされました。
税込価格の表示が定着し、消費税込みであるか否かを示さない価格表示をしている事業者は、ほとんど税込価格を表示しているといえるため、税抜き価格を表示することは、消費税込みの価格と誤認されるおそれがあり、場合によっては不当表示になるおそれもあります(http://www.caa.go.jp/representation/keihyo/qa/hyoujiqa.html#Q18)。
しかしながら、税込価格が明瞭に表示されていれば、仮に税抜価格を強調するような表示を行っても不当表示には該当しないとされました。もっとも、税込表示が明瞭に記載されているということは、消費者が税抜価格を税込価格と誤認するとは考えられないと思いますから、当然のことのように思います。
5.転嫁及び表示カルテルの適用除外
消費税の転嫁を円滑かつ適正に実行するため、転嫁カルテルと表示カルテルについて、一定の要件の下、独占禁止法の適用を除外することとされました。
転嫁カルテルとは、消費税の転嫁の方法について、複数事業者が共同して、そのやり方を決めることです。典型的には、事業者が本体価格に消費税を上乗せした価格で取引をすることを、参加した全事業者で実施することになります。取引先との力関係から、個別に交渉した場合は消費税の転嫁を行えない場合であっても、複数の事業者が共同でそのような申し入れをすれば、転嫁を認められやすくなるであろうということからこのようなカルテルが認められることになったのです。端数を切り下げるのか切り上げるのかなどについて共同で行うこともここに含まれます。
なお、当然のことですが、転嫁の方法とは関係のない本体価格を統一する決定は適用除外の対象外となります。
この転嫁カルテルが認められる要件は、
① 共同行為に参加する事業者の3分の2以上が中小事業者であること
② 不公正な取引方法を用いるものではないこと
③ 事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにするものではないこと
④ 一定の取引分野における競争を実質的に制限することによって不当に対価を維持したり、引き上げたりするものでないこと
⑤ 公正取引委員会へ届け出ること
です。
表示カルテルとは、消費税についての表示の方法をどのようにするかについて、複数事業者が共同して決めることです。
例えば、税率引き上げ後の価格の表示について、以下のような統一的な方法を用いるようにすることです。
・「税込価格」と「消費税額」を並べて表示する。
・「税込価格」と「税抜価格」を並べて表示する。
この表示カルテルが認められる要件は、上記の②~⑤になります。