親事業者の遵守事項⑪~不当な経済上の利益の提供要請の禁止

2015-03-18

親事業者は、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を下請事業者に提供させて、下請事業者の利益を不当に害してはならないとされています。

これは、「不当な経済上の利益の提供要請」といわれる違反行為です。

平成25年度に1件、平成24年度には5件、公正取引委員会が行う勧告(下請法7条)の対象になっています。

禁止事項で最も多く勧告の対象となる減額については、下請法違反行為であるということが周知されたため、「なら、下請代金は支払った上で、別途金銭を支払わせればよいのではないか」と考える親事業者が増えたかどうかは分かりませんが(実際平成15年の下請法改正前は違反行為ではありませんでした)、当然のごとく、別途支払わせれば問題にならないということはなく、この「不当な経済上の利益の提供要請」が問題となります。

この禁止行為のポイントは、

①「自己のために」とはどういうことか?

②「経済上の利益」とは何か?

③「提供させる」とは?

④「下請事業者の利益を不当に害する」とはどういうことか?

ということになります。

まず①ですが、これは、すなわち親事業者の利益のために提供させる場合が、違反行為の要件ということです。ほとんど問題にならない要件だとは思いますが、直接的な利益のみならず、間接的に利益になる場合も含まれると解されておりますので、子会社に提供させるような場合も「自己のために」に該当することになります。

②は、金銭・役務が代表的例であるものの、それ以外にも経済上の利益といえれば一切のものが含まれる(物の保管なども含まれます)ということを意味します。もっとも、実務上は金銭や従業員の派遣などがほとんどで、それ以外のものはあまりないように思います。

③は、任意に提供される場合が除かれるということを意味しますが、購入利用強制の「強制」と同様、事実上、下請事業者に提供を余儀なくさせているか否かで判断されることになると思われます。なので、やはり下請取引に影響を及ぼすこととなる者が経済上の利益の提供を要請することは避けるべきでしょう。

最後の④ですが、4条2項の禁止事項のため、この要件も問題になります。

これは、テキストによると、

・下請事業者が、「経済上の利益」を提供することが製造委託等を受けた物品等の販売の促進につながるなど、提供しない場合に比べて直接の利益になるものとして、自由な意思により提供する場合には、「下請事業者の利益を不当に害する」ものではない。

一方で、

・下請事業者が「経済上の利益」を提供することが、下請事業者にとって直接の利益となることを親事業者が明確にしないで提供させる場合には、「下請事業者の利益を不当に害する」ものとして問題になる。

となっています。

前者の場合は、当然問題にならないといえるでしょう。利益が出ているのですから、ここでは「自由な意思により」という部分は不要ではないかと思います。

問題は後者です。単に、「下請事業者にとって直接の利益とならないのに提供させる」ではなく、「下請事業者にとって直接の利益となることを明確にしないで提供させる」となっているからです。

ガイドラインでは、この点もう少し詳しく、「親事業者と下請事業者との間で、負担額及びその算出根拠、使途、提供の条件等について明確になっていない「経済上の利益」の提供等下請事業者の利益との関係が明らかでない場合」には、下請事業者の利益を不当に害するとされています。

つまり、結果として、下請事業者にも相応の利益(極端に言えば、払った金額を上回る利益)があっただけでは、下請事業者の利益を不当に害さなかったとはいえない、と解されます。

逆に、下請事業者に対して、「負担額及びその算出根拠、使途、提供の条件等」を明確にして経済上の利益を提供させたところ、当初の予定ほど下請事業者の利益にはならなかった場合については触れられておりません。

これについては、親事業者が設定した「負担額及びその算出根拠、使途、提供の条件等」がそれなりに合理的であれば、任意に提供した下請事業者の自己責任とする(従って親事業者は違反を問われない)のか、外れた以上、合理的ではなかったというべきであり、下請事業者からすればだまされたということになるから違反行為となる、とするのかのいずれかになるかと思います。

私見ですが、下請事業者の利益を不当に害したかどうかの問題である以上、当初の予定どおりに行かなかった場合は、下請事業者の利益を不当に害したと考えるべきだと思います。

上記のとおりですので、下請事業者に提供させた経済上の利益以上の見返りをあたえられない場合は、何の提供も求めない、というのが実務上とるべき対応ということになるといわざるを得ません。