消費税の転嫁対策に関する特別措置法案の公表③

2013-05-28

3.事業者がしてはならない行為

平成26年4月1日以降、事業者(特定事業者ではありません)は、自己の供給する商品または役務の取引について、以下の表示をしてはならないとされています。

①取引の相手方に消費税を転嫁しないとの表示

②取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部または一部を対価から減ずるとの表示であって消費税との関連を明示しているもの

③消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって、①②に掲げる表示に準じるものとして内閣府令で定められた表示

ご存じのとおり、今回の法律の中で、もっとも反対の多い部分となります。余りにも反対意見が強いので、法律案も見直され、②については当初のものに「消費税との関連を明示しているもの」という部分が追加されました。

http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

詳細は夏頃に公表予定のガイドラインによることになりますので、ここでは、概要と問題点について触れたいと思います。

(1)相手に消費税を転嫁しない旨の表示(①)

事業者は、取引の相手方に消費税の転嫁をしていない旨の表示をしてはなりません。

例えば、

・当店では消費税をいただいておりません。

・消費税は当店で負担しております。

といった表示は、禁止されることになります。

(2)消費税額の全部または一部を減額するとの表示であって消費税との関連を明示しているもの(②)

事業者は、取引の相手方が負担すべき消費税の全部または一部を値引きするような表示をしてはなりません。

例えば、

・表示価格から消費税分の8%を値引きします。

といった表示をしてはならないことになります。

ただし、前述のとおり、「消費税との関連を明示していること」という要件が付加されたので、

・表示価格から8%値引きします。

という表現は認められることになりました。

(3)消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示

事業者は、対価そのものではなくても、消費税に関連して相手方に経済上の利益を提供するとする内容の表示をしてはなりません。

例えば、

・消費税の8%分ポイントアップ

といった表示は禁止されることになります。

具体的にどのような表示が禁止されるのかは、内閣府令で定めることになっているので、現時点では不明ですが、①及び②に準じるものとなっていることから、これについても消費税との明示的な関連性が要求されるとすると、単に「8%分ポイントアップ」とするだけでは、違反表示にならないかも知れません。

(4)問題点

前述のように、本条項は特にもっとも影響を受けると考えられる小売業界からの反発が強く、法案の修正を余儀なくされました。なぜ反発を招いたのかといえば、直接には業績への悪影響への懸念からだと思います。

消費税引き上げ後に予想される業績への悪影響、すなわち売上の減少に対処するため、小売業界の側とすれば、いわゆる消費税還元セールの類を実施し、売上の減少を抑制したいと考えていたところ(事実前回の引き上げ時には、これにかなり効果があったようです)、それらの販売促進や広告の表現が制約されることになるからです。

もちろん、こういった表現を制約するきちんとした理由があれば、制約を受けてもやむを得ないといえるのですが、これらの条項を導入しなければならない理由というものに、余り説得力がないということも、規制に対する反発の原因になっているようです。

反発を招いた規制の理由ですが、当初は、このような表示を認めると消費税の転嫁に悪影響があるから、とされておりました。すなわち、消費税を取らない、その分値下げするといった表示をした業者は、納入業者に消費税を支払わないことになるので、適切な転嫁を行うためには、これらの表示を禁止する必要があるというのです。対象は事業者ですが、特定事業者の禁止行為の予防的な規定と位置づけられているというわけです。

もっとも、これだけでは、全ての事業者を対象としているということを説明しづらいですし、特定事業者をしっかり監視すればよく、商売のやり方にまで口を出すのは行き過ぎではないかという、もっともな指摘を受けることになります。

そのような指摘に対する反論も難しいと考えたのか、その後は、消費税を納めなくてもよいかのような誤解を生む表現を避けることが理由であるとされたり、消費税の税収を上げるのに悪影響があるからということが理由とされたりしているようです。

どうやら、消費税還元セールの類を行うと、消費者が消費税は納めなくてもよいと誤解したり、消費税の税収が上がらなくなったりすると政府は考えているようですが、この理屈も裏付けるデータがないと、にわかに賛同しがたいといわざるを得ません。

消費税を転嫁するかは、基本的には相対当事者間の契約で決めるべき問題なので、自分からいらないというのも、基本的には自由のはずです。従ってそれを売り物にして商売をするというのも、当然自由であるべきだと思います。そういった点から見ても、本条項には疑問が残るといわざるを得ません。

なお、反対の声に配慮した、「消費税との関連を明示している」との修正ですが、詳しくはガイドラインを待つ必要があるものの、「消費税」という文言さえ使わなければ全ていいということにはならないとすると、その線引きは極めて難しいものにならざるを得ないと思います。

詳しくはガイドライン等を待ちたいと思います。